2023年大河ドラマ「どうする家康」。「鎌倉殿の13人」もそうだったが、今回も前半は「弱気な主人公がアクの強いキャスト陣に振り回される」という図式で、面白い。
武闘派の織田信長(岡田准一)、日本人離れしたルックスと風貌で、山のごとき迫力を醸し出す武田信玄(阿部寛)。いっそこの人に天下を取ってほしかったとすら思うくらいカリスマオーラ全開の今川義元(野村萬斎)。
そしてなにより、松山ケンイチ演じた本多正信! 徳川家康役の松本潤に詐欺師扱いされる鼻つまみ者ながら、不思議な魅力と才気を放っていた。松山は、松本潤とデビュー作「ごくせん 第1シリーズ」(日本テレビ系)以来20年ぶりの共演! そして大河ドラマ出演は2012年放送の「平清盛」に続く2回目。すばらしい「帰還」にツイッターも沸いた。本多正信の、飄々としながらも鈍く重い光を感じる名キーマンぶりに、改めて「平清盛」を観てみたくなった人も多いのではないだろうか。
松山ケンイチが挑んだ“異色の大河”
「平清盛」は大河ドラマのスタートから50年目を飾る記念すべき作品だった。しかし、清盛といえば『平家物語』で描かれた欲深い成り上がり者のイメージが強く、ドラマや小説でも、主人公ではなく、俄然「悪役」として描かれることが多い。その人物を重要な節目に持ってくるとは、NHK、深い決断である。さらに、2011年3月11日に東日本大震災が起こる。「平清盛」のクランクインはその5か月後の8月。松山ケンイチは、日本最恐のダークヒーローを演じながら震災復興に向け日本を力づけるという、恐ろしく難易度の高いミッションを課せられることになったのである。
松山が、2013年に出版したエッセイ『敗者』(新潮社)には、平清盛を演じる覚悟と演技プランが日記で綴られている。「わい」という彼らしい一人称で、指の隙間から零れ落ちる砂を掬うように、日々書き留めているイメージ。その間に、震災や被災地ボランティアで感じた無力感、家族への思い、息子の出産の立ち合いの感動、夢がなかった学生時代の迷い、過去作品の後悔と感謝などがリンクして挿入され、それがすべてまた「平清盛」へとつながり、大きな渦をぐるぐる作っている。
松山は、「平清盛」の初回を観たときの感想を、こう記している。
〈こんな悲しみを背負った男を、何があっても目をそらさず、真っすぐに演じようと思った。わいだけは味方でいようと思った。〉(『敗者』p109)