文春オンライン

「あなたみたいなひよっこに大丈夫なの?」と小雪に言われ…大河でリベンジを果たした松山ケンイチ“敗者のすごみ”

2023/04/09

genre : エンタメ, 芸能

note

「画面が汚い」と酷評の裏で…

 今読むと、「わいだけは味方でいようと思った」の一言がとても重い意味をもって深く響いてくる。というのも「平清盛」はこれまでの大河にないほど評価が分かれ、批判の声は特に、非常に厳しいものだったからである。初回からロケ地である兵庫県の井戸敏三知事(当時)が「画面が汚い」と酷評したことも大きな話題に。視聴率も、初回から最終回までの平均視聴率が12.0%(関東地区・世帯、ビデオリサーチ調べ)と、当時の大河最低記録を更新した。

 しかし同時に、熱烈なファンも多かった。2012年にツイッタートレンドランキングで、日本のテレビドラマ部門で首位。放送から11年経った現在でも「大河ドラマの最高傑作」と高く評価する声もある。

 賛否両論はインパクトが最大級だった証拠だ。松山ケンイチにとっても「平清盛」という作品は大切な宝物だと、多くのインタビューで答えている。そして今も、ドラマのテーマの一つだった、「遊びをせんとや生まれけむ」という言葉を、大事にしているという。

ADVERTISEMENT

©文藝春秋

小雪と出会った作品「カムイ外伝」

「平清盛」の出演は、松山自身が、2010年の「平清盛」制作発表のネットニュースを見て、「どの役でもいいから」と出演を申し出たという。そうしたら、まさかの主演が回ってきたという流れ。私はてっきり、2009年に彼が主人公を演じたドラマ「銭ゲバ」を見て、制作陣がオファーしたのだと思っていた。

「銭ゲバ」は、なりふり構わず金と権力を求め、闇に落ちる主人公の壮絶な人生を描いた怪作だった。キャッチコピーは「金のためなら、なんでもするズラ」。2009年といえば、リーマンショック後の社会格差が問題になっていた頃。明日は休みだ! という土曜の21時にこれを見せられるのかと驚くほど、その不平等な薄暗さを容赦なく深刻に描いていた。そして、時にはよだれを垂らし吠え、「すべては金ズラ」と呟く松山ケンイチに、リアルに不気味さすら感じた。

 同じく2009年に公開された、抜け忍の過酷な運命を描いた映画「カムイ外伝」も、彼のじっとりとした迫力で、躊躇なく時代の暗部をガツンと見せつけられる。人の尊厳を踏みつけられ、走って逃げて、忍んで苦しんで、殺して――。恐ろしいほど心身ともに追われる映画。彼にとっても、肉体的・精神的にかなり過酷だったようだ。実際、アクションシーンで松山が右太ももをケガし、撮影が中断。再開したら今度は熱中症で倒れるなどし、クランクアップが8か月遅れている。

 著書『敗者』でも、この映画での苦しさ、自己管理の甘さについての後悔と、スタッフ、共演者への感謝が書かれている。