準決勝のメキシコ戦では劣勢が続く中、栗山英樹監督の采配が功を奏し、ドラマチックな逆転劇で勝利を飾った侍ジャパン。その翌日には、MLBを代表する有力選手を擁するアメリカ代表を破り、WBC3大会ぶり3回目の世界一に輝いた。
チームを率いた栗山監督はいったいどのような考えで、選手に向き合っていたのか。ここでは、同氏が北海道日本ハムファイターズ監督時代に著した『栗山ノート』(光文社)の一部を抜粋し、名将の発想の源泉に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)
◆◆◆
夫れ主将の法は、務めて英雄の心を攬り有功を賞禄し、志を衆に通ず
『六韜三略』の『三略』に語られているものです。組織を引っ張っていく者は、部下の心をつかみ、部下の功績を称賛し、自らの志を組織に広く浸透させていかなければならない、ということです。
部下の「諫言」は「箴言」です。上司が犯したミスを「それは違います」と指摘したら、ひょっとすると自分の立場が危うくなるかもしれない。それでも、勇気を振り絞って忠告してくれたのです。上司への戒めという意味で「箴言」でしょう。
部下の言葉をはねつけてしまったら、人材を活用できないことになります。結果としていつもどおりの対処となり、部下はやる気を削がれてしまう。それで成功したとしても、部下は仕事への熱量を失う。
部下の意見を聞き入れずに失敗をしたら、部下は自分の責任とは感じない。「だから言っただろう」と、上司に責任を押し付ける。心をつかむということは、人の声を大切にすることなのでしょう。
うまくいかないこともすべて受け止めて野球をやり切る
成功をつかめない組織を分析すると、上司が部下を大切にしていないケースがきわめて多い。収益が上がっても部下の給料を上げない、自分だけ休んで部下を働かせるといったように、部下を冷遇しているのです。
上司が部下を冷遇するのは、自分の地位、名誉、財産といったものを守りたい、増やしたいと考えるからでしょう。けれど、上司となった人も、仕事を始めたばかりのころは分からないことだらけで、ただひたすらに汗を流していたはずです。
上司や同僚、得意先に迷惑をかけてはいけない。自分にできることを少しでも増やして、周りの人たちの役に立ちたい。仕事を始めたばかりのころに抱く気持ちには、私利私欲も損得勘定もありません。