高校卒業と同時のメジャー挑戦を表明していた大谷翔平。しかし、北海道日本ハムファイターズは、ドラフト1位で彼を強行指名した。指名直後は「気持ちは変わらない」とメジャー一本の姿勢を見せていた大谷に対し、栗山英樹監督らは5度にもおよぶ入団交渉を実施。結果的に大谷翔平は北海道日本ハムファイターズ入団を決意した。
栗山英樹監督は当時18歳の少年にどのような可能性を見出していたのか。そして、入団後の大谷翔平をどのように見守ったのか。ここでは、栗山監督の著書『栗山ノート』(光文社)の一部を抜粋し、同監督の思いをありのまま紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
至誠にして動かざる者未だ之れ有らざるなり
吉田松陰が大切にしていた孟子の言葉です。孔子の教えを継いだ中国戦国時代の儒学者が孟子です。
誠を尽くせば、人は必ず心を動かされる。誠を尽くして動かしえないものは、この世には存在しない――そう思いたいものです。
2018年シーズンの私は、監督室のホワイトボードに「至誠如神」と書いていました。中国の古典『四書五経』から引いたものでした。
18年12月1日、北海道の厚真町を訪ねました。同年9月の胆振東部地震で大きな被害を受けた地域です。
訪問のきっかけは一通の手紙でした。厚真中央小学校の池田健人校長から、毛筆書きの熱いメッセージをいただいたのです。「復興のエネルギーである学習発表会に参加してほしい」と書いてありました。
北海道に住み、北海道のプロ野球チームで働いている私です。お断りする理由があるはずもない。喜んで出席させてもらいました。
ファンに勝利の喜びを届けること
厚真中央小学校で子どもたちと触れ合い、同じく地震の被害が大きかった安平町やむかわ町にも足を運びました。池田校長の誠に心を動かされ、とても貴重な一日を過ごすことができました。
プロ野球に携わる私たちは、目前の試合で勝利を目ざして戦っています。自分たちの総力を結集して対戦相手に立ち向かっていくモチベーションは、応援してくれるファンの皆さんに勝利の喜びを届けることです。
これまで自分を支えてくれたたくさんの人たちの思いに応えたい、という真っ直ぐで揺らぎのない思いが、闘争心や反骨心の幹になる。苦しい練習に耐える原動力になります。
私は選手を鼓舞する立場にありますが、私自身が頑張らなければどんな叱咤も激励も虚しく響くだけです。私自身が精いっぱいの努力をして、選手たちに「一生懸命やるほうがいいな、野球人生が楽しくなるな」と感じてもらうことが仕事です。それこそが、選手に対する誠の尽くしかたなのです。