WBC 2023で監督を務める栗山英樹氏は、野球を始めた小学生当時から「野球ノート」をつける習慣があったという。北海道日本ハムファイターズの監督として、日本シリーズ制覇・2度のリーグ優勝に導いた当時もその習慣は続いていたそうだ。

 その内容をまとめた書籍が『栗山ノート』(光文社)。はたして、栗山監督はどのようなことを日々考え、チームの指揮をとっていたのか。ここでは同書の一部を抜粋し、栗山監督の戦術論の一端を紹介する。

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これを知る者はこれを好むに如かず。これを好むものはこれを楽しむものに如かず

『論語』の有名な言葉です。学ぶことにおいて、その知識を知っているということは、勉強を好きな人間には及ばない。勉強を好きな人間は、勉強を楽しんでいる人間には及ばない。知ることよりも好きなことが、好きなことより楽しむことが上達につながる、ということでしょう。

 私たちが携帯電話を使い始めたのは、1990年代の中ごろでした。公衆電話を探す必要がなくなった。それはもうびっくりするくらい便利になったのですが、手のひらに収まる携帯電話が一般に流通するなんて、80年代には考えられなかった。

©文藝春秋

 あったらいいな、と誰もが思っていたでしょう、けれど、「それは無理だよね」という諦めが支配的だった。ところが、自動車電話ができて、ショルダータイプの電話ができて、ポケベルが普及して、ついに携帯電話が市場に登場した。「あったらいいなあ、欲しいなあ」と考えた人たちが知識を総動員して、みんなが嬉しそうに使う姿を想像して、楽しみながら作り上げたのだろう、と私は思います。

 誰かに決めてもらった目標へ向かっていく行為には、どこかで限界が生じる。それが好きなことだとしても、楽しむことができていないからです。

 ファイターズの監督としての私は、「奇策」を使うと言われています。2019年シーズンの序盤戦も、本来のリリーバーを初回に持っていくオープナーを採用したり、三塁手を一、二塁間に配置したりしました。

「常識を疑えば、新しいものが生まれる」という信念に基づいていますが、アイディアベースではもっとたくさんのことを考えています。