先日開催されたWBCにおいて、14年ぶりの優勝を果たした日本代表。大谷翔平やダルビッシュ有、村上宗隆など、国内外から有力選手が結集したチームをひとまとめにしたのは、栗山英樹監督の手腕が大きな要因と言えるだろう。いったい栗山監督はどのような考えのもと、チームをまとめあげたのか。

 同氏が北海道日本ハムファイターズ監督時代に著した『栗山ノート』(光文社)の一部を抜粋し、名将の発想に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

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差し出口

 江戸時代後期に禅僧や歌人、書家として名を馳せた良寛は、『戒語』を言い残しました。文字どおり戒めの言葉です。『戒語』の中の言葉です。

『戒語』は九十箇条ありますが、どれも普遍性を持って私たちに迫ってきます。チーム内でのミーティングや試合前後のメディア対応など、話をする機会の多い私には耳に痛いものばかりです。

 しゃべり過ぎる。相手の話に口を挟む。負け惜しみを言う。心にもないことを言う。手柄話や自慢話をする。減らず口を叩く。話の腰を折る――自分では気が付かないうちにやってしまいそうなものばかりです。

©文藝春秋

 私が気を付けているのは、相手の話を聞くことです。

 話を聞くということは、相手の思いに触れることです。選手の話はできるだけ聞くようにします。聞き手にならなければ、相手の悩みや苦しみに近づくことはできません。

選手の本音を各方面からすくい上げて対応

 私に悩みを打ち明けたからといって、選手の心が晴れるわけではない。野球のことならともかく、家族、家庭、友人関係の悩みなどは、できることが限られます。何もできないかもしれない。それでも、話を聞いてもらうことで気持ちが落ち着いたり、心の重荷をほんの少し下ろしたりすることにはつながります。私自身が話すことで救われる経験をしてきたこともあり、胸のつかえを吐き出すことで新たな一歩を踏み出すことができるのではないだろうか、という気がします。

 たくさんの時間を費やして相手の話を聞いても、本心に辿り着けないことがあります。ファイターズの選手たちであれば、監督には言いにくいこともある。他でもない私自身も、現役当時は監督に本音を明かすことに抵抗を覚えたものでした。

 聞き手によって言うことが違う、ということもあります。たとえば、私に「ケガはしていません」と話した選手が、コーチには「ちょっと痛みがあって」とこぼし、トレーナーには「かなり痛いです」と明かす、といったことです。

 選手心理としては理解できます。試合は休みたくない。けれど、痛みを抱えていることは誰かに知っておいてほしいわけです。「なぜオレにホントのことを言わない」などと言うわけにはいきませんから、各方面から選手の声をすくい上げて対応します。