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人生二度なし

 森信三先生が残した有名な言葉です。

 明治から平成を駆け抜けたその人生は、逆境の連続だったと言われています。ご両親が離婚をされたり、就職先が見つからなかったり、多額の借金を背負ったり。愛する子どもに先立たれるという、あまりに悲しい経験もされています。

 人生に絶望してもおかしくないなかで、森先生は「人生二度なし」の信条を追求していきます。たった一度の人生なのだから一瞬、一瞬に生きる情熱を燃やさなければいけない、と考えたそうです。度重なる逆境をはねのけていった原動力は、「どうも人間というのはどこかで阻まれていないと、その人の真の力量は出ないようです」という思いだったのかもしれません。

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©文藝春秋

 私の身近にも、逞しい突破力を発揮する男がいます。

 大谷翔平です。

 身体能力に恵まれ、高校野球の強豪校からファイターズへ入団し、ポスティングシステムでメジャーリーグへ旅立っていった。

 ロサンゼルス・エンゼルスの一員としてメジャーリーグ初打席で初ヒットを記録し、ピッチャーとしても初登板初勝利をあげた。メジャー初ホームランは、本拠地での第1打席だった。

 メジャーでも二刀流を貫き、新人王に選ばれた。これまでの歩みのどこを切り取っても、順風満帆と言っていい野球人生です。

足掻いてもがいて切り開いた道

 しかし、華々しいトピックの間で、翔平は苦しみを味わっています。メジャー1年目の2018年シーズンには右ひじの手術を受け、19年シーズンはバッターに専念することになりました。

 19年シーズンのキャンプインを前に、一緒に食事をする機会がありました。久しぶりに会った彼は、私の知る「大谷翔平」そのままでした。謙虚で、真面目で、礼儀正しい好漢です。

©文藝春秋

 メジャー1年目を経た成長も感じました。アメリカという未知の環境で足搔いて、もがいて、自分の道を切り開いていったのでしょう。心が開かれているな、という印象を受けました。艱難辛苦を乗り越えた者が持つしなやかな力強さが、さらに増しているようでした。

 一度きりの人生だから、一日でも無駄に過ごしたくない。野球への情熱を燃やし続ける。彼の真っ直ぐな生き方はとても眩しく、私を奮い立たせてくれます。 

栗山ノート

栗山 英樹

光文社

2019年10月16日 発売

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