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栗山監督は精神的に追い詰められた選手とどう向き合っていた…? 日ハム監督時代から変わらない“コミュニケーションの信念”

栗山監督は精神的に追い詰められた選手とどう向き合っていた…? 日ハム監督時代から変わらない“コミュニケーションの信念”

『栗山ノート』より #4

2023/03/31
note

 ファイターズには70人前後の選手が所属しています。彼らは個人事業主ですから、シーズンの成績によって翌シーズンの年俸がダウンしたり――複数年契約を結んでいる選手は、期間内は大幅なダウンはないですが――他チームへ移籍をすることになったり、現役を退いたりする。1打席、1球が野球人生を左右します。

 刹那の世界で必死に生きているので、精神的に追い詰められた状態が続きます。結果を受け止められずに、気持ちがささくれ立ってしまうこともある。

 けれど、ボールを打つ、投げる、追いかけることが大好きだった少年時代の思い――初心を忘れてほしくないし、うまくいかないこともすべて受け止めて野球をやり切ってほしい。70人前後の選手にそういった気持ちを抱いてほしいのですが、心の成長はとてもゆっくりしたものです。

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愚直な積み重ねこそが、周りの人たちに響く

 2019年シーズンのオールスターゲームを挟んだ時期に、清宮幸太郎がバッティングに苦しんでいました。10試合以上もヒットが出ず、32打席連続で安打が出なかった。打率は2割を切ってしまった。

 調子が上向かないなかで、彼は必死に練習に取り組んでいました。「なかなか結果が出ないこの時期をどう生かすのかは自分次第です」とも話していました。

 だとすれば、監督に必要なのは忍耐です。幸太郎を信頼して使う。先発で起用しないこともありますし、先発で使っても代打を送ることもある。けれど、彼の結果に対してジタバタしない。あたふたもしません。

©文藝春秋

 自分の身を正して、心を正して、清く正しく生活していく。愚直な積み重ねこそが、周りの人たちに響くのだと信じます。穏やかな波のように、ゆっくりと広がっていく。

 正しい心、正しい行ない、正しい言葉遣い、正しい努力を続けて、心を成長させていく。自分自身の成長によって組織にいい影響を与えたい、と私は考えます。

すべて上に立つ者は、得意な方面があることが良くない。専門分野を持つべきではない

 江戸中期の儒学者、荻生徂徠の言葉です。

 ファイターズの監督に就任した1年目、日本シリーズで読売ジャイアンツに敗れました。2年目はパ・リーグで最下位に終わってしまった。3年目はクライマックスシリーズのファイナルステージで、福岡ソフトバンクホークスにあと一歩及ばなかった。