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新井貴浩が監督で本当に大丈夫なのか? カープファンの“不安”を“期待”に変える方法

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/03/31

彼は「シン・アライ」なのだ

 続く「第二形態」。言わずもがな、阪神時代だ。同じようにカープから阪神にFA移籍し、優勝請負人……“兄貴”として阪神ファンの絶大な信頼を得ていた金本の弟分として大歓迎された新井だったが、2010年こそ自己最高の打率・打点・盗塁をマークするも、翌年は打点王に輝きながら併殺打と失策数もリーグトップという、いいのか悪いのかよく分からない結果を残す。中でも併殺打の多さは顕著で、ランナーがいる場面だと「はいゲッツーね」と阪神ファンも相手チームのファンもそう思い、実際にそうなり、かつて金本知憲という金看板に守られ阪神ファンから温かい目で見られていた新井の信頼度は下降線の一途を辿る。そして、最終的に「自由契約」。新井の第二形態は、第一形態と同じく中途半端な結果に終わってしまった。

 そしていよいよ「第三形態」。カープ復帰である。といってもこの復帰は球団の温情で、年俸はわずか2000万円。さらに言えば、獲得こそしたものの戦力になるのか、どう使われるのかはまったくの白紙。新井の第一形態、第二形態を知るファンも懐疑的な見方をしていたし、当時の緒方監督も「もしかしたら新井さんも活躍するのか」と苦笑いでインタビューに答えていたほどだ。

 しかし。ここからの新井はスゴかった。黒田と共にチームを盛り上げ、阪神時代の第二形態からは想像もできないようなバッティング技術を見せ、2017年7月7日の“七夕の奇跡”を始め、数々の伝説を残した。かつて私に「新井をカープに返したいんだけど」と言っていた阪神ファンの知人が「なんであれを阪神時代にやってくれなかったの?」と真顔で聞いてきたことがあるが、それは私も同感であり、予想もしなかった活躍ぶりには頭を下げるしかなかった。

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 あれ? ちょっと待ってくださいね。私は冒頭で、なにかと心配な新井が監督になることに対し「不安感に包まれてしまった」と書きました。だからこそ第一形態、第二形態を振り返ったわけですし、さらに言えばコーチ経験も無いし、いちいちネタにされるキャラだし、そのあたりも加味してここまで書いてきました。でも、考えてみたら「第四形態」の始まりですよね? なにより第三形態から尻上がりですよね? しかも映画「シン・ゴジラ」だと第四形態のゴジラは完全覚醒してますよね? あれ? これって、もしかして脈ありですか? というか、新井監督が不安だからと言って、私は新井以外のベストな監督を挙げられるんですか? すいません、挙げられません。

 どうやら私は選手時代、特に第一形態と第二形態の新井に抱いていた不安をそのまま現在に移行させてしまったようだ。なんせあのキャラ。球界が誇るネタ製造機。でも、違う違う、そうじゃない(2度目)。彼は「シン・アライ」なのだ。覚醒の第四形態なのだ。チームを「家族」と呼び、明るい雰囲気で引っ張るニュータイプの監督。いきなり上手くいくとは限らないけど、入団時の新井を見て、誰が2000安打を達成すると思っただろう。誰が300本を超えるホームランを打つと思っただろう。ひたすら粗く、ひたすら下手だった男は不可能を可能にしてきた。その男が「監督」になったのだから、これは信じるしかない。なにかは分からないけど、なにかを持っている新井を。第四形態の「シン・アライ」を。チームの……いや、新井家の皆さん。声出し全開の球場で、大いに暴れまわってください。赤い心を見せながら。

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