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 最終回の時代設定は2027年である。大阪万博も終わってしまっている。このような近未来のおとぎ話になったわけは、もういい加減コロナ禍から抜け出したいという誰もの思いの代弁ではないだろうか。

 折しも3月13日からマスク緩和となり、着用が個人の判断に任されることとなった。3年間、マスクをし続けた生活から解放され、旅行者も増え、イベントも再開されている。こういう状況に、いろいろあったけれど結果的に何もかもうまくいって人生のリスタートを切るという内容のドラマは多くの人に受け入れやすいだろう。その点では極めて時代に沿ったストーリーになっている。

 しかも、コロナ禍、かなり打撃を受けた飛行機で序盤を引っ張り、最終的には、大阪万博で実用化を目指している未来の乗り物・空飛ぶクルマを登場させて、航空業界も応援しつつ、これからの未来にこんな魅惑的なものが待ち構えているとアピールしているのだ。

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 近未来を描くことは、SFドラマとして大上段に構えるもの以外、朝ドラに限らず珍しい。その点で「舞いあがれ!」はチャレンジしたといえるだろう。ただし、朝ドラで近未来を描いたものは「舞いあがれ!」が初めてではない。「ふたりっ子」「まんてん」「カムカムエヴリバディ」などがある。が、まだできていない発明品を登場させるのはなかなかのチャレンジだったと思う。「まんてん」も宇宙にいく展開だったが宇宙ロケット自体はその当時すでにあった。

ヒロイン・舞は令和の若者像を反映している

 明るい希望、近未来の夢と来て、ヒロイン像も新しかった。思い通りにうまく行き過ぎる、ヒロイン無双は、朝ドラらしくもあるが、舞は終盤、他者のために働いていた。自分の夢を叶えることよりも、他人の夢を手助けすることを優先していた。「こんねくと」という弱小の町工場と町工場を結びつけ、それらのいいところを世にアピールするための会社を設立し町工場の再生に奔走する。

NHK公式サイトより

 空飛ぶクルマもその一環で、大学の先輩・刈谷(高杉真宙)の夢(空飛ぶクルマ開発)の手助けをした結果、舞は空飛ぶクルマを操縦することもできた。結果オーライではあるが、あくまで他者に力を貸す仕事。飛行機を操縦することをヒロインの優先順位一位に置かないところが健気。作業現場にたこ焼きを何度も差し入れるばかりだと、これはこれでもやもやするが、ヒロインが常に主体性をもってぐいぐい突き進めば突き進んだで、疲れると言われるのが朝ドラである。

 例えば「ちむどんどん」のヒロインは仕事も恋も、周囲のことは二の次で、とにかく自分のやりたいことに突き進んでいた。

「舞いあがれ!」の制作統括である熊野律時チーフ・プロデューサーは、意識的に舞をこれまでの朝ドラヒロインに多かったがむしゃら系ではなく、周囲に気を配る系のヒロインにしている。

 以前、ヤフーニュース個人で取材したとき、現代の20、30代くらいの新しいことをはじめている人たちが少し前のリーダーとは変わってきているように感じたと熊野CPは語っていた。

 全部自分が決めるワンマンなタイプではなく、目的のために、それぞれの能力を見極め、得意分野のある人に任せ、それぞれの特性をゆるやかに統合していくというやり方を行うリーダーもいるという印象を番組制作のための取材で感じたというのだ。(ヤフーニュース個人『「舞いあがれ!」”テナント募集中”の文字に隠された伏線よりも重要な意味』より)。そのため舞も、町工場編以降、引いた視線で皆のいいところを引き出そうとする人物として描かれた。

 放送前の取材で熊野CPは「(脚本の)桑原(亮子)さんが言うには、舞は方向確認する人なんです。前に進むとき、横や後ろをしっかり確認して、みんながついて来ることができているかなと気にしながら、誰一人置いていかずに進んでいくのです」とも語っていた(シネマズプラス『制作統括・熊野律時インタビュー「『舞いあがれ!』は善人しかいない、日常をすくいとっていく物語に」』より)。

 舞の仕事は事業ではあるが、人助け的な面もある。そういう仕事は華々しいパイロットやシェフなどと比べると地味に映るが、令和の今、重要な仕事であろう。