タモリが番組スタッフにぼやいた瞬間
2014年までは月~金に『いいとも!』の生放送があるタモリのスケジュール上の制約もあり、ロケも東京周辺にほぼ限定された。一度、日帰りで台湾ロケを敢行したことがあったが、あまりの強行軍に、普段はほとんど愚痴をこぼさないタモリが「スタッフは先に行っていて日帰りじゃねえだろ」と珍しくぼやいたという逸話が残る。
90年代後半以降、バラエティ番組で多用されているワイプやテロップを『タモリ倶楽部』ではほとんど使わないのも低予算ゆえである。今年2月に放送された回で、番組のテロップづくりがとりあげられたことがあったが、このとき、試しに画面上へ現在のバラエティ風にテロップを入れてみたところ、いかにもうるさく、『タモリ倶楽部』のシンプルさを改めて実感させた。
テロップ一つとっても、『タモリ倶楽部』がいかにテレビの主流から外れた番組づくりをしているかがうかがえる。実際、番組で長らく演出を担当したハウフルスの山田謙司は、ほかの番組がまずターゲットを設定した上でつくられているのに対し、この番組では自分たちのやりたいこと、それもほかがやらない企画をあえて選んでいると、かつて述べていた。それだけに素材に独自性があるかどうかが最重要ポイントであり、たとえ人気が出た企画でも、ほかの番組で真似されたら面白みが半減するので、もう『タモリ倶楽部』では使わなかったという(『Diamond Visionary』2006年10月号)。初期には、昔流行った名曲・珍曲を紹介する「廃盤アワー」という人気コーナーを他局に真似され、スタッフを憤慨させたことがあった。
「空耳アワー」が“復活”したわけ
近年の『タモリ倶楽部』は、本筋のテーマだけで構成されてきたが、かつてはさまざまなコーナーがあいだに挟まれていた。初期には、タモリと女優の共演によるメロドラマ(というのももはや死語か)のパロディがあったり、タモリと山田五郎が女性のお尻を品評する「名尻鑑賞・今週の五つ星り」などお色気物のコーナーも多かった。
一方で、視聴者投稿によるコーナーも連綿とあった。たとえば、街中にあるシュールな建造物などを、視聴者からの情報も頼りにしながら、タモリとともにマンガ原作者の久住昌之とカメラマンの滝本淳助が訪ねる「東京トワイライトゾーン」は人気を集め、単行本化もされた。余談ながら久住は、マンガ『孤独のグルメ』の原作者として、のちのドラマ版では番組終わりのミニコーナーに出演している。このドラマは、シーズン5以降は金曜深夜の放送となり、奇しくも『タモリ倶楽部』の裏に回ることになった。
このほかにも、数々のコーナーが生まれては消えていった。そのなかにあって番組名物となり、コーナー終了後も不定期ながら企画として残ったのが「空耳アワー」である。もともとは、同じ映像でも音楽をつけるとまったく違うものになるという別タイトルのコーナーのなかで、洋楽なのに歌詞が日本語のように聞こえる曲を紹介したところ好評だったため、企画を変更して生まれたという(『週刊女性』2007年10月30日号)。そんな「空耳アワー」も、マンネリになるからとの理由で一度終了したが、後継のコーナーがどれも数回で自然消滅し、復活したという経緯がある。