『狼の怨歌』(平井和正 著)

 世の新刊書評欄では取り上げられない、5年前・10年前の傑作、あるいはスルーされてしまった傑作から、徹夜必至の面白本を、熱くお勧めします。

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 人体実験も辞さぬ狂気の医師・大和田の研究施設に運び込まれた少年・犬神明(いぬがみあきら)。瀕死の重傷を負った少年は驚くべき回復力を示し、あろうことか切断されたはずの手首までが完全に再生していた。

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 人間の不死につながる秘密があるのかもしれない。そう考えた大和田は少年に致死量を遥かに超える毒物を注射した。たちまち少年を死の痙攣が襲う。そのときだ、激しく苦悶する少年の顔が変容を始めた。犬歯が伸びて牙と化し、獣毛が皮膚を覆ってゆくではないか! 悲鳴が上がる、

「獣人現象だ!」

 平井和正が一九七二年に発表、若者を熱狂させた『狼の怨歌』である。この名作が、生賴範義の口絵と挿絵の入った新版で復活した。

『狼の怨歌』は、狼男である少年・犬神明を主人公とする「ウルフガイ・シリーズ」の第二作。学園アクションだった第一作『狼の紋章』からスケールを大幅に拡大させた謀略アクションとなっている。

 本シリーズには、もう一人の人狼が登場する。軽妙なハードボイルド探偵のような雑誌記者・神明(じんあきら)だ。人狼の不死の秘密を狙う暗闘に巻き込まれる彼の死闘が前半の展開を担い、銃撃戦にカーチェイス、CIAと中国情報機関の謀略戦と壮絶なアクションを満載しながら、犬神明の物語と合流して大きくうねり出す。

 その熱量はただごとではない。悪は徹底して悪辣かつ強大。そこに向けられた憤怒が、熱病じみた脈動となって過激な物語に問答無用の説得力をもたらす。そして物語が進むにつれて熱と怒りはヴォルテージを増し、血を吐くような言葉がページに刻まれてゆくのだ。美麗にして荘厳な挿絵が彩る激情の嵐。それに翻弄されていただきたい。(紺)

狼の怨歌【レクイエム】〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

平井 和正(著)

早川書房
2018年1月10日 発売

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