「文藝春秋 電子版」に掲載された元テレビ東京プロデューサー・高橋弘樹氏のロングインタビュー「私がテレビ東京を辞めた本当の理由」の一部を転載します。

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 3月5日、日経新聞とテレビ東京の共同事業で運営されている人気YouTubeチャンネル「日経テレ東大学」が3月末をもって終了することが突然発表された。

「聞かされたスタッフはみんな『はぁ~?』という反応でした。僕も思わず『これは“人殺し”とおんなじだわ』と口走りましたし……」

 そう明かすのは同番組のプロデューサーだった高橋弘樹氏だ。「日経テレ東大学」は、テレビ東京のプロデューサーとして『空から日本を見てみよう』『家、ついて行ってイイですか?』など数々のヒット作を手掛けた高橋氏が、2021年4月に立ち上げたニュースバラエティ番組。ひろゆき氏(「2ちゃんねる」開設者)や成田悠輔氏(イェール大学助教授)といった論客を積極的に起用し、わずか2年で登録者が100万人を越える快挙を成し遂げた直後の突然の終了発表は、関係者の間で驚きをもって受け止められた。

 業績的にも大成功を収めていたはずの超人気番組は、なぜ終了に追い込まれたのか。番組終了に先駆けて2月末でテレビ東京を退社した渦中の高橋氏がその「内幕」を明かす。

高橋氏 ©文藝春秋

――そもそも「日経テレ東大学」はどういう経緯で始まったんですか。

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 最初に日経新聞の方から「テレビ東京のバラエティチームと経済番組を作りたい」という企画募集があり、これにダメモトで応募したら通っちゃったんです。テレビ東京入社以来、16年間バラエテイ一筋で、それはそれで楽しかったんですが、さすがに少し飽きていた部分もあり、YouTubeという未知の世界で、これまで接点のなかった日経新聞と一緒にやるのは、単純に面白そうだった。

 企画書には「あなたは、なぜ人がエロ本を一度しか読まないか、説明できますか?」と書きました。これは経済学における「限界効用逓減の法則」――モノやサービスから得られる効用(満足度)は、回数を重ねるごとに減っていく――をキャッチーに伝えたわけですが(笑)、人間の心理や行動を数式で説明できる経済学って、実は我々が思っている以上に懐が深いんじゃないか、と。

 もともと僕はテレ東に入ったときはジャーナリスト志望で政治とか経済に興味はあったので、「本格的な経済・ビジネスを、もっと楽しく学ぶ」というコンセプトで教養バラエティを作ろうと思ったんです。

――最初はどういう体制で始まったんですか?

 最初は制作チームと事業チームを合わせて10人くらいですね。それぞれのチームに日経とテレ東から人を出して、あとは制作会社のスタッフさんですね。テレ東の局員として制作に入っているのは私一人でした。

――それまでYouTubeで番組を作った経験はあったんですか?

 テレ東として本格的にYouTube番組を作ること自体初めてで、僕個人もまったく経験はなかったし、YouTubeも見たことありませんでした。だから最初は試行錯誤というか、本当に挫折の連続で、動画を出すたびに回らず(=再生回数が伸びないこと)の繰り返し。最初の3カ月は登録者数も1万人に届かなくて、これはテレビマンとしての自分を一度捨てないとダメだな、と。

 それからは真面目にYouTubeの人気番組を見て、何がネットでウケるのかを研究して、テレビとネットの違い、ネットの作法を何となく身体に沁み込ませていきました。さらに投稿した動画に対する数字の反応をみているうちに、どうすればオススメ動画にあげてもらえるのかというYouTubeの「アルゴリズム」も何となく見えてきました。