決まるべくして決まり、選ばれるべくして選ばれていったエヴァンゲリオンの人気声優たちの中で、惣流・アスカ・ラングレー役の宮村優子はそれまでほぼ無名の新人であり、そしてエヴァンゲリオンという作品が生み出した声優界の新星になっていく。
「本当は綾波レイ役でオーディションを受けたけど、声の元気が良すぎてアスカ役になった」と宮村優子が『アスカライソジ』の中で語るように、彼女の声には綾波レイの青い寂寥とは正反対の、真っ赤に燃え上がる火のようなエネルギーがあった。「あんたバカァ!?」と碇シンジをこき下ろす有名なセリフに象徴されるそのキャラクターは、作り手の予想を超えて作品の人気を支える重要なキャラクターの1人になっていく。
興味深いのは、テレビシリーズ放映から『シン・エヴァンゲリオン』の完結に至るまで、アスカ・ラングレーというキャラクターの人気が上がり続けていることだ。90年代にはエヴァを象徴するキャラクターは包帯を巻いた綾波レイだったが、2020年のNHK特番の人気投票ではすべてのキャラクターを抑えてアスカが1位になっている。
話題を集めた90年代後半と、21世紀の新劇場版で、特にアスカの物語上での扱いが向上したわけではない。『スター・ウォーズ』シリーズが本質的にはスカイウォーカー家の物語であるように、エヴァンゲリオンは碇シンジと父ゲンドウ、その母から作られた綾波レイという血の家族の物語であって、アスカ・ラングレーは物語の傍流で敗れ続けるキャラクターにすぎない。
だがそのストーリーに抗うように、アスカというキャラクターは日本のみならず海外でも人気を獲得していく。「redhead」「ginger hair」などと、英語圏でのアスカの説明にはしばしば、赤毛を意味する言葉が並ぶ。「赤毛のアン」から「長靴下のピッピ」に至るまで、ヨーロッパには赤い髪の女の子は気性の激しい反逆児、という文脈があり、中世では時にそれが差別や魔女狩りにも繋がった歴史がある。
アスカの髪はブラウンか赤毛か、という議論もあるようだが、一部の海外ファンの中でエヴァという物語の反逆児であり続けたアスカ・ラングレーは、アン・シャーリーやピッピに連なるキャラクターとして捉えられているのかもしれない。
波瀾万丈すぎた私生活
対談集『アスカライソジ』の中で垣間見える宮村優子の半生も、押し寄せる荒波に対する反逆と自由奔放の連続だ。
あまりに特徴的な声のために「子供の頃から声が浮いていて、めちゃくちゃイジメられたんです」(『アスカライソジ』)という少女時代。小学校の将来の夢に「結婚してもできる職業」と書いた少女は、エヴァンゲリオンで声優ブレイクしたばかりの1998年に最初の結婚と翌年の離婚、2004年に2度目の結婚を経験し、一度はオーストラリアに移住する。