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アスカとシンクロしたまま、アニメ界に残された宮村

『声優プレミアム』の中で「宮村さん自身とアスカのイメージを重ねられることも多かったのでは?」と問われた宮村優子は「そんなのばっかりです。何をやっても『アスカだよね』と言われて『そうなの』という。だって、アスカは作って演じたわけではないから。自分の中にあるものを出していったので、絶対に自分と同じになりますよね」と答えている。

 林原めぐみや緒方恵美はプロとして、地声とは違う声でシンジやレイを演じたが、ほぼ無名の新人としてオーディションに合格した宮村優子のアスカは、ほぼ地声だったのだ。

 エヴァンゲリオンとそれに乗る14歳のチルドレンとの関係のように、声優と役柄をシンクロさせる庵野秀明の演出方法は、デビューしたての新人である宮村優子に最も劇的な相互効果を及ぼし、声優への負担と引き換えに作品にリアリティをもたらした。アニメ史に残る旧劇場版のラストシーン、「気持ち悪い」というアスカの台詞が、「目覚めてこんな男がいたらどうする」という庵野秀明の問いに対する宮村優子の答えから取られたことはその象徴だ。

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 だが庵野秀明がオタクに決別を突きつけてシリーズを終わらせた後に、その批判的メッセージを背負ったキャラクターとシンクロしたままアニメ界に残されたのは「アスカの声」を変えられない宮村優子だった。

 何をやってもアスカだね、と言われながら、気持ち悪い、という言葉でエヴァブームを終わらせたヒロインの声を背負って宮村優子は声優界で生きていかなくてはならなかった。エヴァンゲリオンは彼女をスターダムに押し上げた福音であり、そのメッセージを背負う呪縛でもあった。

 バセドウ病と橋本病を期間を空けて発症し発声もままならなくなるという、健康面でも声優活動の危機に瀕した宮村優子は、『名探偵コナン』の遠山和葉役の降板を自ら申し出るが、「治るまで待つ」というスタッフの言葉に救われ続投する。長い継続性と安定性を持つ『名探偵コナン』というコンテンツだからこそ可能な懐の深さだろう。その後は回復し、遠山和葉役は今も、服部平次とのゆっくりと進むラブストーリーの中で継続している。

 緒方恵美も林原めぐみも、「エヴァの後の世界」を生き延びることが宮村優子にとっていかに過酷だったか、ファンに語られないことも含めて、エヴァンゲリオンの裏側の過酷さをよく知るからこそ、古参兵が戦場から生還した新兵を見るように、あれほど優しく宮村優子を見つめるのかもしれない。

「今はオタクや声優が認められる良い時代になりました」宮村優子は様々な場所でそう語る。確かに90年代から時代は大きく変わった。池袋にオープンした巨大なアニメイトは1階から9階まですべてアニメ関連のフロアがぶち抜くアニメの殿堂だが、さらに驚くのはその中にひしめくアニメファンのどう見ても7割以上が女性ファンであることだ。平均年齢層は若く、外国人やカップルも多い。