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 提出した課題の作曲作品はいくつか譜面という形で現存している。課題として提出せざるを得ないためにきちんとした譜面にする必要があり、そのおかげで現存した。坂本龍一の藝大時代の提出課題で、譜面として残っているものには以下のものがある。

藝大時代の提出課題で残されている坂本龍一の譜面

 Sonate pour Violin et Piano〈ヴァイオリン・ソナタ〉

「藝大の期末の演奏会で初演したもの。級友にヴァイオリンを弾いてもらって、ぼくはピアノ。尊敬する三善晃さんがパリの音楽院の学生の頃、フランスにはアンリ・デュティユがいて、三善さんは影響を受けたそう。それにぼくも影響を受けてこの『ヴァイオリン・ソナタ』も初期の三善さんやデュティユっぽくなっている」(※※)

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 Quatuor à Cordes, études Ⅰ,Ⅱ〈弦楽四重奏曲 エチュードⅠ,Ⅱ〉

「これもやはり三善さんの影響を受けている。あとはベルクやバルトーク。この曲は『エチュード』と題しているように、弦楽四重奏のための習作。バルトークの影響は濃くても、それは戦前のバルトークで、1970年代にしてはすごく保守的な作品ではあります。そのぶん、藝大というアカデミックな場所では収まりはいいけれど」(※※)

©吉村栄一

 Quatuor à Cordes〈弦楽四重奏曲〉

「先の『エチュード』を習作として書いたもの。『エチュード』にくらべて、こちらはもう少し1970年代の音楽に近づいている。そのぶん、いろんな当時の作曲家の影響を受けすぎていて、スタイルがまったく統一されていない。第四楽章になるといきなり高橋悠治さんっぽくなって、まったく別の曲のよう。それは当時、自分でもわかっていたけど、ひとつのスタイルでまとめるなんてくそくらえみたいな気持ちがあったんじゃないかな。八方破れで学校からの採点も低かったはず」(※※)

 これらの作品は、後年あらためて演奏され、録音されている。

「Quatuor à Cordes, études Ⅰ,Ⅱ〈弦楽四重奏曲 エチュードⅠ,Ⅱ〉」は2016年のコンピレーション・アルバム『Year Book 1971-1979』のために同年、ニューヨークで演奏されたものが収録された。

「Sonate pour Violin et Piano〈ヴァイオリン・ソナタ〉」と「Quatuor à Cordes〈弦楽四重奏曲〉」も同様に『Year Book 1971-1979』に収録されている。また、この二曲は2022年9月にも信頼する若手演奏家と再び録音された。

 これらのほかに、吉本隆明の詩に音楽をつけたものなど、いくつかの作品の楽譜が現存している。