「結局、退去者は“ゴネ得”なんですよ。修繕費が気に食わずにゴネまくったら、私らのような業者や管理会社、オーナーがどこまでそのトラブルの解決のために頭と時間を割くかどうか。限界ラインを超えたら、値引きしてでもその住人を納得させるのが1番楽だし、穏便なんです。とはいえ、そのレベルまでいくには、ゴネる側も並大抵の精神力がないと、キツいと思いますけどね」
修繕費が400万にのぼったケース
ここまで、退去者側が明らかに迷惑行為をはたらいていた部屋を紹介してきたが、なかには必ずしも住人のせいだけとは言い切れない、複雑なケースも存在するようだ。
「いままでで修繕費が最大となったのは、都心の3LDKのマンションで35年間一人暮らしをしていた高齢男性の部屋でした。全室の壁紙がすべて剥がれ、床の絨毯も剥がれて浮きっぱなし、風呂の浴槽もシステムキッチンもカビだらけ。当然、全交換が必要だったので、修繕費は総計400万円となりました。もはや修繕というより、リフォームの額ですよね」
ただし、この悲惨な部屋の状況は、住人の男性の怠慢だけが原因ではなかった。退去立会いの数年前、その真上の部屋からの水漏れトラブルが起きており、男性はマンションオーナーに「部屋が水浸しだから対応してくれ」と訴えていたという。しかし、オーナーにはその部屋の修繕を行うだけの資金がなかったために、男性の要望は無視され続け、こうした惨状ができあがったのだ。
「実際、不動産オーナーは必ずしも裕福ではないという現実があります。なかでも顕著なのは、親のマンションを譲り受けた2世オーナー。2階建て全6部屋のマンションを譲り受けても、立地が悪いうえに築20年超えだとせいぜい家賃は1部屋5万円くらいしかとれないし、満室のときなんてほぼありえない。
なのに、もはや年に1部屋ずつ、10万円はかかるエアコン交換はしないとガタがくる築年数だし、ほかの共用部分の修繕も必要となると、正直まったく採算がとれない事業なんです。私が関わってきた範囲ですが、きちんと利益を上げられているオーナーさんは3人に1人もいないんじゃないですかね」
部屋が水浸しになっても対応してくれないオーナーはレアケースかと思うが、それも絵空事ではないくらい、オーナーの懐はひもじくなっている。住人のモラル以前の問題も、退去時のトラブルの一因となっているようだ。