――生き残ったら、ですか……。たしかにライオンに中指を食いちぎられたり何度も大怪我をされていますからね。
純子 その時も畑は「女房には言わないでくれ」って番組のスタッフに言ったらしいんですよ。実際に指がないんだから、隠し通せるはずがないのに……。ライオンにやられたと聞いた時は「私が落とし前をつけに行く」と言ったんですが、さすがにブラジルは遠いし、畑自身も気にしていないし、痛いとさえ言わない。それで、命まで取られたわけじゃないからよかったかと思うようになりました。
「あの絵、売っちゃったの? 黙って? あらまー……」
――落とし前(笑)。でもやっぱりお互いの存在が一番の宝物ですね。
純子 そうですね。畑からもらったものはやっぱり大切です。リビングに飾っている絵は、30年以上前に私と当時飼っていたパグを描いてくれたもの。私は本当に気に入っているのですが、畑はいつも「売りたい」って言うので「それだけは止めてください」と頼んでいます。畑の描いた絵はできるだけ手元に置いておきたいんですけど、この人は隙あらば売ろうとするんですよ。
ムツゴロウ 僕はね、自分の描いた絵は売らないとダメっていう考えなんです。人に持っていてもらうことが大切だと思っているので、画廊に任せている絵も「安くてもいいからとにかく売ってくれ」と言っています。そういえば、しばらく家に置いてあったアフガニスタンの人々を描いた絵も昨年ようやく売れたんですよ。
純子 あの絵、売っちゃったの? 黙って? あらまー……。でも畑の魅力をわかってくださる方がたくさんいるということなら仕方ないですかね。気に入ってはいたんですけど。
――純子さん、また受け入れてしまっています(笑)。
純子 もう70年以上一緒にいますからね(笑)。でも畑とは中学2年生の頃から一緒ですけど、今でも何をするか予想がつきません。私はどうも、その何をやるかわからない畑を面白いと思ってしまうんです。流れるような話し方も好きだし、今でも憧れます。確かにちょっと常識とは違うかもしれないけれど、本当に魅力的な人間だと思いますよ。
――70年、振り返ってどうですか?
純子 考えてみれば長い間生きてきて、私たちもいい年になりました。5年前に畑が心筋梗塞で倒れてドクターヘリで運ばれる時は「もしかしたら最後かもしれない」という思いがよぎって顔を見るのが本当に怖かったです。なんとか回復して1カ月くらいで家に帰ってきてくれて、2人の時間を大切にしようと改めて思いました。今でも毎朝、畑の「おはようございます」を聞くまではやっぱり心配。もう新しく動物を飼うのは無理ですけど畑にはもう少し長生きしてほしいし、生まれ変わってもまた一緒になりたいですね。
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