「年末に言うてた学校の土地はどうなってん?」
と問いかけると、
「まだスポンサーが見つかっていないんです」
と言い、紙に三角形を書いて説明しはじめた。
スポンサーが見つかっていないと言われても、それは学校側の事情であって、買い主であるプレサンスには関係のないことだ。
「わかった、わかった」
まったく進んでいないと判断する。ほかの仕入れ部門幹部とは違い、小森に進行している手持ち物件もなさそうだ。これ以上尋ねても前向きの成果は出て来ないだろうと判断したため、ミーティングはものの1分くらいで終わらせた。
「社長個人のお金、18億円を貸してください」
それから数週間が過ぎた1月末日、取締役会と事業部会の間の昼休みのこと。小森がすっとわたしの横にやってきて、
「明浄学院の件を動かすため、山本さんに社長個人のお金、18億円を貸してください」
と言ってきた。
「え、オレの金を貸すんかい?」
「はい。そうしないと、この案件が前に進みません」
「そういう風に貸したら、いつ返ってくるんや?」
「プレサンスが手付けを先方に入れた段階で戻ってきます」
「ということは、手付けに移行していくもんなんか? ブリッジみたいなもんか?」
のちに争点となる「お金の流れ」
本件の場合、土地を売れば明浄学院にはすぐに高額の手付金が入ってくる。その前に学校法人が大きなお金を必要としており、手付金が入ってくるまでの、つなぎ資金を借りたいのかと確認したのである。
「はい、そうです」
移転先が確定しないと、いまの学校用地を売ることはできない。しかし移転先を確定するには色々物入りなのかもしれない。そこでまず、誰かが山本さん経由で18億円を学院に貸す。それを元に学院は移転事業を進める。移転先が確定したら、プレサンスと明浄学院の間で現在の学校用地の売買契約を締結。会社から学校に手付金を支払い、そのうち18億円を学校が山本さん経由で資金提供者に返すという仕組みなのだろうと理解した。
手付けに移行していくお金ということで、18億円も当然、山本さんを経由して学校法人の口座に入るものと思っていた。
この点がのちのち最大の争点になってくる。