平野 ほとんどいません。一人寂しいからAI犬アイボを50万で買って育てていたんですが。名前はヨネコ。でも、放置プレイを続けていたら僕の言うことを何も聞かなくなってさ。あとトンビはかわいい。餌で調教して、ベランダに来て逃げなくなるまで半年かかった。
――トンビって人間に懐くんですね。
平野 最近やっと目が合うようになって逃げなくなったけど、ご近所が迷惑していたみたいで、おっとっと……という(笑)。だからメダカを飼いだしたんだけど、あれは意外とつまんないものだね。今はまっているのが「天体望遠鏡」で、ベランダで夜空を見ています。
老人ホームの外での人間関係
――老人ホームの外での交流はありますか。
平野 テニスがしたくて鴨川の市民サークルに入ったんだけど、がっちりと固まった閉鎖的な地域のコミュニティによそ者が新規参入するのは、簡単なことではないと痛感しましたよ。排他的ではないんだと思うけど。
――平野さんが高級老人ホームに住んでいることは明かされていたのでしょうか。
平野 少しだけ親しくなった数人を除いて、あまり言わなかったな。そんなこと言うと「嫉妬」が渦巻くんじゃないかな。鴨川市としては新しい、しかもリッチな住民が来てくれるのはうれしいのかもしれないけど、施設が充実しているから、建物の中で生活が完結してしまうんですよ。買い物にゆくとしたらイオンとかでしょ。そうすると、地元にはそんなにお金が落ちないのかもしれないね。
家族に看取られるのは「嫌だよ」
――今後、鴨川市で何か事業やイベントをするお気持ちはありますか。
平野 きっと何もできないと思う。毎日酒飲みながら音楽を爆音で聞いてたくさんの本を読んで、楽しかったスリリングな青春を思い起こしながら、私の見る夢も終わってしまって、やがて最期の時が来る。この人生を振り返りながら「ありがとう」と言って静かに海を見ながら終わりたいんですよ(笑)。
――家族に見守られながら最期の時間を過ごしたい、とかではないんですね。
平野 家族とかが集まって、「お父さん、死なないで」なんて手を握られるのは嫌だよ。そんな死に様は晒したくない。
願いはただひとつ。これ以上生きたって意味がない、そう思えるくらい生き切って、家族に頼ることなく専門家の医師に任せて一人で静かに死んでいきたい。そのために老人ホームに入ったわけで、だからテーマはやっぱり、近い将来やってくる死なんですよ。