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《マイケル・ジャクソンの「パン、茶、宿直」》タモリ倶楽部の40年を振り返る 「空耳アワー」4000本

2023/04/29
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空耳は1回の予定だった

 渡辺 安齋さんの本業はデザイナーとイラストレーターでしょ(笑)。安齋さんは、構成作家の町山広美さんからお声が掛かって、「空耳アワー」のコーナーに出るようになったんですよね。最初は企画を考えた町山さん自身が出ていたんだけど、誰か代わりに出てくれる人はいないか、となって。

 安齋 「ダジャレもやってるし、ぴったりだと思う」って電話がかかってきて。

 渡辺 「ダジャレもやってるし」って。仕事なのか(笑)。

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渡辺祐氏 Ⓒ文藝春秋

 安齋 イラストレーターとして、あなたが編集していた雑誌『宝島』の「VOW」のページでダジャレの絵を描いてたでしょ。

 渡辺 ああ、あれですか。

 安齋 ダジャレもやってるし、音楽のデザインやってるし、あと長髪だし、あなたしかいないと。

 渡辺 画(え)的にも力があると。

 安齋 その3つのうち、タモリさんはダジャレと長髪が好きじゃないと言われて、あえてそれをぶつけたいと。嫌がらせに近い化学反応が何か起こるんじゃないかって。

 渡辺 プレゼンうまいですね。

 安齋 それで、「まあ、じゃあ1回だけね」って。

 渡辺 それ以来、何年?

 安齋 30年。

 渡辺 すごい(笑)。人間、何が起こるか分からないですね。

 安齋 本当だよ。最初は「あなたにも音楽を」っていうコーナー名だったんだから。当時は、邦楽と洋楽の2本立てだったんだよね。それを投稿の多かった洋楽を中心にして「空耳アワー」に変えちゃったの。

 渡辺 安齋さんは「空耳」のとき、1回も同じTシャツを着ていないっていう伝説は本当?

 安齋 本当かも。

 渡辺 黒柳徹子さんみたいですね。予算は大分安いけど(笑)。

 安齋 安いよ。面白がってTシャツをくれる人がいるのよ。だから、とんでもないレアものも着てるよ。

 渡辺 しかし30年はすごい。

タモリ倶楽部「空耳」最後の回の台本 Ⓒ文藝春秋

 安齋 「空耳」は1992年からやって、95年に一旦終わるんだよね。花束をもらって、スタッフの涙とともに送り出されたの。そしたら半年も経たないうちに呼び戻されて復活したんだよね。戻ってきたとき、恥ずかしかったよ。その後、2020年にコロナとかで映像作りが難しくなったみたいで、年に何回かの放送になってね。

 渡辺 毎回、空耳ネタを3本見てましたよね。合計では何本?

 安齋 4000本以上見たみたい。しかも、撮ったけど放映しなかったボツネタが1500本もあるって。

過去の台本を懐かしむ2人 Ⓒ文藝春秋

 渡辺 とくに印象に残っている空耳ネタって何ですか?

 安齋 プリンスの『バットダンス』が「農協牛乳〜」って聞こえるやつかな。煙の中を牛乳が迫り上がる映像がまさに空耳って感じでね。

 渡辺 マイケル・ジャクソンの『スムーズ・クリミナル』の「パン、茶、宿直」から始まって、空耳ネタが増殖していったのも面白かった。

 安齋 あれは? あなたから仕事の催促の電話がかかってきてさ、僕が「間に合わないや〜」って言ってるように聞こえるネタ(笑)。スティングの『フラジリダード』って曲。