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安齋肇の涙の断髪式

 渡辺 『タモリ倶楽部』には、今ではサブカル系って呼ばれるような文化人や、一般的には知られていない役者さん、ミュージシャンもよく出てましたよね。それがだんだん世の中に知られている芸人さんや、一流芸能人も出るようになって。

 安齋 バブルだね。

 渡辺 初期は恐らく、低予算っていうことがあったんでしょう。

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 安齋 そうかもしれないけど、そもそもの前提として、僕たちは番組の制作者じゃないからね(笑)。

 渡辺 だから予測でしか言えませんけど「流浪の番組」っていうスタイル自体が、スタジオではやらない、セットとか照明とかにお金をかけないってことだから。

 安齋 素晴らしいですよ。フットワークが軽くて。

 渡辺 しかも、誰が得するのかも分からない企画も多かった。だって「安齋肇 涙の断髪式」って企画で1本やっちゃうんだから。

 安齋 あの頃はド長髪でさ、タモリさんが「ずいぶん髪が伸びたね」って言うから、「今度10センチくらい切ろうと思ってるんですよ」って言ったら、「どうせならスパッといかないと」って。

 渡辺 これで1本撮れると。

 安齋 で、収録始まった途端、シティボーイズのきたろうさんがいきなり僕の前髪をバツンって切っちゃった。

 渡辺 私も現場にいましたが、あれは面白かった(笑)。

タモリ氏 Ⓒ時事通信社

 安齋 「歌手のプリンスの髪型にすると見せかけて、完成した髪型は日本のプリンスの横分けでした」ってオチは決めていたらしいんだけど、前髪の長さが足りないから美容師さんが困っちゃって。でも、タモリさんも番組のスタッフも動じないんだよ。へっちゃら。

 渡辺 そうなんですよ。芯になるネタは番組のスタッフがガッチリ用意してくれているんだけど、結論とか途中のプロセスとかは自由に遊ばせてくれましたよね。

 安齋 家に帰ったら、うちの奥さんはひっくり返るくらいびっくりしてたけど(笑)。

 渡辺 長髪で出かけて横分けで帰ってきたから(笑)。「涙の断髪式」の台本にいいこと書いてありましたよ。「この番組の制作姿勢は十年来、思いついたら即実行。小さなきっかけ大きく水増し」。

 安齋 うまいね。この番組は「毎度おなじみ流浪の番組」とか、「誰が言ったか知らないが」とか、タモリさんの口上も素晴らしかった。渡辺祐のコーナー「怖いですねアワー」には口上あった?

 渡辺 あったっけなあ……だって、1987年頃の話ですよ(笑)。

 安齋 あの後が、山田五郎さんの「今週の五ツ星り」になったんだっけ? 女性の生のお尻を美術的視点から品評するコーナー。

 渡辺 いや、その前にもミニ・コーナーはたくさんありました。「東京トワイライトゾーン」とか。漫画家・久住昌之さんと写真家の滝本淳助さんコンビが、不思議な風景や物件を訪ねて歩くという世界観が番組に合っていましたよね。

 安齋 本にもなったしね。

 渡辺 でも当時、久住さんもお茶の間では誰だか分かってなかったかもしれませんね。『孤独のグルメ』が始まる大分前だし。滝本さんに至ってはもっと分かってない。そんな2人がタモリさんと一緒に街を歩いているという。

安齋肇氏と渡辺祐氏による対談「タモリ倶楽部 40年を語ろう」全文は、「文藝春秋」2023年5月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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タモリ倶楽部 40年を語ろう