――女優といわれて、ふふん、となるのはなぜでしょう?
岸井 なんでしょう、個人的な印象としては、女優といわれてもあんまりうれしくないのかも(小さく肩をすくめて)。私は演劇からキャリアをスタートしたこともあって、「みんなで演劇をつくる」という感覚がすごく好き。だから、たまたま表に出るのは俳優部の俳優だけど、みんなで一緒につくっているという意識でずっとやってきて、女優といわれると、なんだか言葉として強いなって思います。
スカウトなのにこのままで大丈夫か
――19歳で初めて舞台に立ち、役者をはじめられた頃のこと、どんな風に思い出しますか?
岸井 はじめたというか、ただ事務所に入っているだけという感じですね。ドラマの主人公のクラスメイト役とか、エキストラみたいなセリフのない役をやっていたので。
――それはオーディションを受けて?
岸井 行って受かっても、セリフはなかったです。私、一応スカウトなので……。スカウトされたのに、このままで大丈夫かって、20歳のときに自分で劇団に応募したんです。ドラマのセリフのない役では絵の中の背景みたいに扱われていたのが、舞台ではどんなに役が小さくてもみんなで一緒につくることができるんですよね。最初は(脚本の)文字だった物語を、みんなで立ち上げていくところがすごく好きで、映画もそうですよね。
最初はスカウトだったけど、演劇をやりはじめたら映画のプロデューサーがそれを見ていて、そこから映画に出演する機会が増えていって。だから、役者をやりたいと思ったきっかけは、演劇にありました。
まだバイトを辞めていない理由
――アルバイトをしていた時期もあると伺いましたが、辞めたのはいつごろですか?
岸井 バイトはねえ、辞めてないんですよねえ。行けなくなったのは、2019年の映画『愛がなんだ』が公開されたころですね。でも、その後もけっこうしてました。周りの人が引くくらい。
――引くくらい? 何のアルバイトですか?
岸井 皿洗いのバイトをしてて。
――たしかにご著書で、年末には決まってお寿司屋さんのアルバイトに行っていたと書かれていましたよね。
岸井 そうそう、いまも行っていて。だからいつ辞めたんですかって聞かれると、辞めていないっていうことになる! 好きなんで行ってるんですよね。
――どういうところがお好きなんですか?
岸井 うーん、私にとって、俳優部だけで生きるっていうことが……言い方が難しいですね。奇妙な世界だと思うので、そこだけで生きるのはちょっと怖いなって思う。だから、安心します。アルバイト先に行くと。