「俳優部だけで生きるのは怖い」「ただ好きで映画を観ているだけで安心する」――。2022年12月からロングラン上映されている映画『ケイコ 目を澄ませて』で、生まれつき耳が聞こえないプロボクサー役を熱演し、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞に輝いた岸井ゆきのさん(31)は、高校生のときに山手線の車内でスカウトされて19歳から舞台に立ち、第一線で活躍するいまでも、皿洗いのアルバイト先に顔を出しているといいます。
「怖い」と「安心」という言葉で自らの世界を丸ごと受け止め、「普通に生きる」生活の工夫をしながら、地道に前に進み続ける岸井さんの足取りを追いました。(全2回の2回目/前編から続く)
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――劇中でケイコがノートに日記をつけるシーンが印象的でした。あれは岸井さんの文字ですか?
岸井 そうです。岸井さんの(笑)、文字です。
――いつもは意識しないような、カリカリと乾いた鉛筆の音も素敵でした。普段からなにか書かれていますか?
岸井 はい、書きます。日記ではなくて、説明するのがすごく難しいんですけど、「言葉」を書いてますね。
――手書きで?
岸井 手書きです。ボールペンも絶対これというものがあって、(おもむろにペンを探して取り出して)パイロットの「ハイテックCコレト」! いまはあまり売っていなくて、家に何本か用意して、替え芯もたくさん揃えてあります。いつなくなるかわかんないから。
女優じゃなくて俳優でいいのかな
――どれくらいの期間書いているんですか?
岸井 もう12年くらい書いてますね。19歳のときから、か。
――19歳ということは、すでに事務所に所属している頃でしょうか。
岸井 入ったくらいですね。
――もう10年以上の習慣なんですね。言葉や文章というと、岸井さんのフォトエッセイ『余白』(NHK出版)で、肩書きを「俳優」としていたのが目にとまりました。ご自身では呼び方についてなにか意識していますか?
岸井 世の中がもう女優じゃなくて俳優でいいのかなって。あと俳優部とはいうけど、女優部とはいわないし、録音部、照明部と同じように、自分のことを俳優といったりします。あと舞台をやっているときは、「役者」といわれることが多いですね。女優といわれると、ふふんってなるけど、役者か俳優かといわれたら、どちらでも大丈夫です。