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 その前に彼からいろいろ聞かされた話によると、彼、Kくんは四国の出身なんです。夏休みになると四国へ帰っていくわけだ。そのとき必ず2等車に乗るって言うわけですよ。切符は3等だけど2等車に乗ると。2等車に乗るとね。お金持ちの人がそばへ寄ってくると。「どこまで行くの?」と聞いてくるから四国まで行くという話をしていると大阪駅へ着くまでにいい仲になって。

 もし途中で車掌が来たら、その人が払ってくれるし、〔改札を〕出る時は3等の切符で出られる。そのオジさんが「今晩、俺がご馳走してやるから大阪へ泊まっていけよ」って言ってきて、泊まっていくと大変いい思いをしたと。そんな話をよくしていたから。そのためにだなと思って。

――ご馳走してもらって性的にもいい思いをして。そんなに確率的にいるもんなんですね。

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 外れたことがない、休みのたびに片道切符でタダ旅行しているみたいなものだと言ってました。

ゲイバー「アドニス」はどこにあった?

――少し話を戻しますが、「アドニス」の場所は、区役所通りを上がっていって右側になりますか? 柳街ですか?

 そう。上がっていってっていうかね。新宿駅のほうから行くと右側です。柳街ですね。当時、都電がありました。都電があってね。車庫に入る道があってね。こっちに線路【注2】が行くとちょうどこのへんにありました【図1】。常に電車の音が聞こえました。

「アドニス」までの略図。広域図は南氏作成、破線部拡大図は1965年住宅地図を参照。

――音が聞こえました? ああやっぱり。それでコマのほうへ行ったりしたということですね?

――「イプセン」や「アドニス」でボーイさんはショーをしていたりしました?〔石田〕

 いや、何もしてない。

――じゃあ女性の格好もしてない?〔石田〕

 してない。男の格好です。

――「イプセン」は男の格好(美青年系)で、女装している人がいいという客が来たときに、わざわざ千鳥街へ連れていったという話があります。〔三橋〕

――なるほど。「アドニス」や「イプセン」のお店の広さはどの程度でしたか?〔石田〕

 えーとね。「イプセン」だと、8畳間が4部屋くらいですね。全部テーブル席だったんですよ。一段上がったところにテーブル席もあって「あそこには早稲田の教授が来るんだ」なんて言ってた【図2】。そこが指定の席なのか、お金払えそうなのをそこへ上げるのか分からないけど。

「イプセン」の内部。南氏作成。

――カウンターではなかった?

 カウンターではない。

――一番のお馴染みは「アドニス」だったんですか?

 「イプセン」はなんていったって高いから。

――「イプセン」は高い(笑) 結構〔そういった〕証言がありますね。

 それでね。「アドニス」は行けば一人で十分なんですよね。誰も寄ってこないから。

――いわゆるボーイさんが自分の売上げ持っていけるように寄ってこないっていうことですね。

 寄ってこないですね。

「イプセン」にいたボーイとの思い出

――ボーイさんはハンサムだったんですか?

 あのね。ハンサムだったと思うんですけど私の好みは田舎風が好みだったから。

 ところがそこにいたんです。「イプセン」に。田舎風の好みのがね。あまりお客さんが付かない子だった。それで私はその子を指名したんですよね。そしたら行くとすぐ彼が来てさ。「他の子も呼んでいい?」って言うから。ああ、まあそうすれば彼も株が上がるだろうと思っていいよって言うと「おう!」ってすぐズルズルって。

――ああ、そうか。一人指名しても結局、回すと来ちゃうんだ。なるほど。