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「発達障害を作り出す、最悪の母親」ワクチンの“正しい情報”を広めただけなのに…妊娠中の医師を苦しめた「日本人の誹謗中傷」

『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』 #1

2023/04/23

source : 文春新書

genre : ライフ, ライフスタイル, 医療, 社会, メディア

note

 また、アメリカの学校は通常学級に戻っておらず(多くの公立学校は2020年3月より13か月間閉鎖され、リモートのみの授業でした)、我が家は一人にはしておけない5歳と3歳の子どもたちが「ママ、お腹空いた。ママ、これどうやってやるの? ママ、怪我しちゃった」と言う中で、リモートワークを強いられていた時期でした。

 何か月間も育児と仕事の役割を夫と午前午後で交代してやりくりし、私の子どもたちはいつになれば普通の学校生活や習い事を経験できるだろうか、日本の両親は孫に会えるだろうか、そしてパンデミック中の、リソースが限られた育児と仕事に挟まれた苦しい生活に私自身はいつまで耐えられるだろうか、と感じていたのです。

妊娠中のワクチン「接種するリスク」と「接種しないリスク」

 ワクチンの安全性や有効性を示す治験の結果や、妊娠には影響を与えにくいと考えられるmRNAワクチンの仕組みを吟味して、妊娠34週だった2021年1月初旬にワクチンを接種できたときには、安堵の気持ちでいっぱいでした。何十年間にもわたるmRNA研究が高い予防効果と安全性を有するワクチン開発につながったことへの感動、また最前線でコロナ治療にあたっている医療者への感謝とともに、「もうすぐ普通の生活に戻れるかもしれない」という希望が胸を占めました。

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 さらに、世界でも初めてに近い段階で妊娠中にワクチンを接種させてもらった者として、後に続く妊婦さんのためになる情報を提供したい思いが強く、ワクチン接種をした妊婦の追跡研究に参加しました。私の妊娠の経過や、出産後の赤ちゃんの健康状態に関して追跡調査を許可し、また私がワクチン接種して産生した抗体が胎盤を通ってお腹の中の赤ちゃんに渡り、赤ちゃんをもコロナ感染から守ってくれることを確認する研究にも参加しました。

妊娠中の内田舞さん(写真:本人Instagramより)

 私自身は、妊婦さんのワクチン接種のデータがなくとも、既に充分に存在した基礎研究のデータを見て、このワクチンが私の妊娠や赤ちゃんに悪影響を及ぼすことはなく、重症化予防のベネフィットは大きいと自信を持てましたが、やはり多くの方が大丈夫と思えるには臨床研究が必要です。その後、私も参加した臨床研究によって、妊娠中の新型コロナワクチン接種の安全性と有効性を示すエビデンスが積み上がり、現在では妊娠中の接種は世界的に推奨されています。

 私が妊婦としてワクチンを接種した2021年1月の時点で、日本では未だ新型コロナワクチンは承認もされておらず、mRNAワクチンのメカニズムの説明も十分になされないなかで、「なんとなく怖いワクチンなんじゃないか」と漠然とした不安を抱えた方が多い時期でした。