ずいぶん前のことだが、夕方に博多駅から特急「かもめ」に乗って長崎に行くことがあった。博多駅は始発だからどうせ座れるだろうと指定券は買わず、あまり深くも考えずに発車間近の「かもめ」に飛び乗った。そしてさて、空いている席は……と自由席車両を行ったり来たりしてみたのだが、これがなんとまあ、まったくびっしりと席が埋まっていたのだ。
どこにも空席はない。仕方がないので諦めて、いつかどこかで空くだろうとデッキで立つことにした。同じように立っている人もちらほらいて、車内の通路にも立ち客がいるほどの盛況ぶりだった。
なんでこれほどの盛況ぶりなのかというと、長崎で福山雅治のライブがあるからだとかそういうことではなくて、ほとんどのお客がスーツを着込んだ会社員とおぼしき皆様ばかり。つまり、博多駅から夕方の特急「かもめ」に乗る人たちは、仕事帰りの方々が中心なのだ。
なんとしても座って帰りたいという人類始まって以来の欲求を満たすために特急を使っているのかどうなのか。缶ビールを飲むおじさんの旨そうな表情を鮮明に覚えている。
ようやく車内が空いたのは…
ようやく車内が空いたのは佐賀駅だった。佐賀駅が近づくと、みなごそごそと降り支度をはじめ、通路には長い列ができる。そうして佐賀駅に着くやいなや、勢いよく捻られた蛇口のようにスーツ姿のお客たちが外に流れ出てゆく。ここでようやく座席を得て、佐賀駅から長崎駅までのⅠ時間半は、ゆったりと旅をすることができた。
博多~佐賀間は特急「かもめ」ならばおおよそ40分。普通列車を乗り継いでもざっと1時間ちょっとだから、博多と佐賀はあんがい遠くない。首都圏や京阪神なら1時間の電車通勤なんてざらにいる。ちょっとお金を出せば特急で優雅に通勤できるのだから、佐賀県の県都である佐賀の町は、福岡市内への通勤圏内でもあるのだろう。
「佐賀」には何がある?
そんなわけで、今回は佐賀駅にやってきた。特急「かもめ」の旅をしたことがある人も、佐賀駅でずいぶんお客が降りていくことを気にした向きもあるのではないか。
お叱りを受けるのを承知でいえば、佐賀県といったらだいぶ地味なイメージが先に立つ。特に、あまり佐賀県とは縁のない地域に住んでいる人ならなおのこと。だが、あれだけ特急「かもめ」からお客が降りてゆくのだ。いったいどんな駅なのか、実に気になるところである。
高架のホームを降りて改札を抜けると…
佐賀駅は、高架のホームを持つ。乗り入れている路線はJR長崎本線だけだ。唐津線のディーゼルカーもやってくるが、これは佐賀~久保田間で長崎本線に直通している形なので、実質的には長崎本線一本槍のターミナルといっていい。