路線バスにしても、立地や分譲地の規模を考えれば、開発当時にもそれほど多くの運行本数が確保されていたはずもなく、つまるところ限界分譲地というものは、その開発当初より、交通手段のいかんを問わずアクセス性を考慮して開発されたものではないのである。
「値段で勝負! 生活に必要な施設はありません」
手もとに、そんな当時の分譲地の販売もようを伝える貴重な資料がある。写真は、バブル景気の幕開けの時期、1987年に東京都内で新聞折り込み広告として頒布された、旧香取郡大栄町(現・成田市)の分譲地の販売広告である。
「場所と値段で勝負!」「緑ゆたかな自然の大地を先取りしませんか!」と、読み手に力強く購入を呼びかけるこの広告の謳い文句をよく読むと、今日の感覚ではひどく奇妙に思える記述にあふれている。
国際空港をかかえる成田市の周辺に資産(不動産)を所有することの優位性がながながと謳われている一方で、肝心の正確な所在地については、物件概要のなかにごく小さな文字で記されているだけで、最寄り駅から物件までの所要時間や交通手段の記載もなければ、小中学校など教育施設への言及もまったくない。
現地までの案内図は詳細に記してあるものの、肝心の物件の区画図などがないため、状況すら仔細にはつかめない。写真入りで紹介されている駅や商業施設などは、当時は隣接自治体であった成田市内のものであり、近隣施設とはとてもいえない。
アピールする利便性など皆無にもかかわらず、販売業者は「持っててよし!」などと、ただひたすら土地の取得のみを推奨するばかりで、住宅地の販売広告でありながら、そこにじっさいに住居を構えて生活することをまったく想定していないのである。それどころか、概要欄の文末に「現況有姿販売につき、生活に必要とされる施設はありません」などと臆面もなく堂々と記している始末である。