コロナ禍の発生という未曾有の状況のなか、スナックを始めとする夜の街はきわめて大きな影響をこうむってきた。そんな状況下で、現場の人々はどのような風評被害や経営の苦労に直面していたのか。

 ここでは、スナック愛好家として知られる法哲学者の谷口功一氏が、日本各地のスナック、ラウンジ、クラブ、バーなどを1年にわたってめぐり歩き、そこで繰り広げられる人々の営みを描き出したノンフィクション『日本の水商売 法哲学者、夜の街を歩く』(PHP研究所)より一部を抜粋。

 銀座にある会員制BAR「おかえりなさい さつま二」の店主・植村亜紀子さんのエピソードを紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く) 

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写真はイメージです ©iStock.com

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銀座のママとの偶然の出会い

 取り上げたいのは、日本を代表する夜の街「銀座」である。店名は「おかえりなさい さつま二」。夜の店との出会いはさまざまだが、この店との出会いは2018年6月、銀座の知り合いの店で呑んだ帰りの深夜0時を過ぎ、銀座界隈の店はおおむね店じまいとなった頃合いだった。

 高級クラブのママやホステスがそこらじゅうでタクシーを捕まえ客を見送るじつに銀座らしい光景を横目に見ながらブラブラ歩いていると、のちにこの店のママであると知る植村亜紀子さんがお客を店外のタクシーに見送る姿を目にした。

 たまたま店の前を通りかかった私は、小さく瀟洒な店名のプレートに書かれた文字を見て「会員制かぁ」とは思ったのだが、見送りを終えて戻ってくる植村さんに「初めてなんですが、入れていただけますか?」と思い切って声をかけた。彼女は私を一瞥してすぐに「イイですよ」と言い店に入れてくれたのだが、それがこの店との付き合いの始まりだった。

初めて店を訪れた日に本を貰う

 何度か店に足を運んでから聞いたところ、「会員制」というのは本当で、こんなふうに初めての人を店に入れることは、ほぼないとのことだった。のちに植村さんに聞くと「そのとき、谷口さんの目を見て大丈夫だろうと思った」とのことだった。有り難いことである。

 初めて店を訪れた日、私はお土産に植村さんの半生を綴った『殿方ごめんあそばせ』(さんぜん舎、2010年)という本を貰った。夜の街で成功した経営者の本はざらにあるので、この本もそういう1冊だろうと高をくくり、翌日、山手線の車内で読み始めたのだが、私は深く後悔することになった。――面白いのである。いや面白すぎるのだ。