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実はクライミング能力がかなり高い

「実はクマはクライミング能力がかなり高くて、岩場でも自由に動けます。樹木が一切ない北アルプスの頂上稜線でも目撃例があるくらいですから、けわしい岩場だからといって出没しないわけではありません」

 そう言われれば筆者も、岩壁をスルスルと登っていくクマの動画を見た覚えがある。それは海外で撮影されたものだったが、岩壁の傾斜は垂直に近いように見え、人間が登るのはかなり難しそうな場所だった。

 襲撃に至るまでのクマの足取りは山﨑教授にもわからないとのことだが、クマは気配を消すのが非常にうまいという。島田さんは、10秒ほど前に自分がいた場所からクマが突然飛び出してきたような印象をもったというが、実はごく近くでクマは息を潜めていたのかもしれない。

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©森山憲一

クマが人を襲うときのパターンはさまざま

 さて、このように山中で突然クマに襲われた場合、私たち人間にできることはあるのだろうか。

「山中でクマに出会ってしまった場合のセオリーとしては、クマに刺激を与えないことです。逃げ出したり、突然大声を上げたり、大きな動きをしたりという行為は控えるのが基本になります」

 へたに刺激を与えるとクマが驚いたり興奮したりして襲ってくることがあるのだという。

 ただしそこから先はケースバイケースで、刺激を与えなくても襲ってくる場合もあり、逆に、襲ってくるように見えても、それはただの脅しで、至近距離まで迫ってきたところで逃げていくケースもあるそうだ。

 クマが人を襲うときのパターンはさまざまで、完璧な防御策はないのが現実と山﨑教授はいう。ベアスプレー(クマが嫌う成分を噴射するスプレー)を持っていれば撃退できる可能性は高いというが、普通の登山では持っていないケースのほうが圧倒的に多いし、スプレーは至近距離で噴射しないと効果がないので、クマが射程内に入るまで恐怖に耐えられるかという問題もある。

 となると、ベアスプレーを持っていないときに本気のクマに襲われたら、覚悟を決めて戦うしか選択肢はないのか。