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石神井の中華飯店で、71歳店主がつくる「550円のラーメン」を…荻窪の老舗との“知られざる縁”に迫る!

石神井の中華飯店で、71歳店主がつくる「550円のラーメン」を…荻窪の老舗との“知られざる縁”に迫る!

B中華を探す旅――石神井「漢珍亭」

2023/05/09
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 昔、荻窪北口駅前に「漢珍亭」という1949年創業の中華料理店があった。場所的には荻窪ルミネ正面入り口のはす向かい、現在は回転寿司店があるあたりだ。幼かったころの話なので記憶は曖昧だが、いつも賑わっていた印象は残っている(どうでもいい話だが、亡父は当時、ここでラーメンをすすりながら母にプロポーズしたらしい)。

10年前に閉店したが…

 当時、気の強い台湾人のおばちゃんが仕切る店は非常に賑わっていたのだが、駅前が再開発されてからは荻窪タウンセブン裏手のビル2階へ移転。そこでは娘さんと婿養子に入った旦那さんが営業を続けた。シンプルな醤油ラーメンがとてもおいしく、味つけ玉子を浸透させた店としても知られていた。

 だが、残念ながら2013年に閉店。「あの味、懐かしいなあ」とたまに思い出していたのだが、そのことを知人に話したところ、意外な答えが返ってきた。

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「漢珍亭って、たしか石神井のほうにありますよ。行ったことないけど」

 まじか! するとあの夫婦は、荻窪から石神井に移ったのか? もしもそうなら、絶対に食べたい。なにしろ思い出の店なのだ。スパイク・リーの映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』に出てくるブルックリンの住人たちは地元のピザ屋のピザで育ったが、私は漢珍亭のラーメンに育てられたようなものなのだ。いや、それほどでもないが、でも懐かしいのは事実だ。

いざ、思い出の店を訪問!

 そこで訪ねてみたものの、驚くほど辺鄙な場所である。なにしろ、最寄駅である西武新宿線の上石神井駅がすでに“最寄り”ではない。北口を出て、上石神井通りを北へ。交差する新青梅街道も越えて、さらに北へ。石神井川の先をしばらく進んだら、「石神井台皮フ科」を越えてすぐの角を左折。上石神井北小学校を左に見ながら進むと、やがて白いシャッターで閉ざされたベージュ色の建物が現れる。地図で確認する限り、そこなのである。

 だが、店がない。なのに、見上げればたしかに「中華飯店 漢珍亭」という赤い看板が。両側をシャッターに挟まれた建物は中央よりやや左部分に開口部があり、その横には立て看板も出ている。

 足を踏み入れると、いちばん奥の左側にサッポロビールの立て看板が3つも並び、その横に赤いのれんのかかった引き戸が見えてきた。