介護が「生きがい」になってしまう人ほど要注意
「介護は人の生きがいになってしまうことがあります。要介護者(介護を受ける人)と介護者(介護をする人)の間にカプセルができて、双方が互いに依存しあうのです。親は子どもの世話にならないと生きられない、世話する子どものほうも介護を自分の使命のように捉えてしまう。かつて強者だった親が自分を頼ってくれるのはうれしいことでしょうが、尽くしすぎるのはかえって危ない面もあります」
かつて親に愛されなかったからこそ、せめて今から愛されるためにがんばりたい、それは無理からぬことだろう。だが、「尽くしてあげている」という思いは「だから自分は報われるべきだ」、そんな感情につながっていく。報われるためには結果が必要、それも自分が満足する結果がほしくなる。
牧野さんが扱ってきた介護相談の中に、その典型例があるという。親子ではなく夫婦のケースだが、企業戦士だった元エリートの夫が認知症の妻を介護していたものだ。
「夫は妻を献身的に介護していると誇らしげでした。認知症の進行を止めるためだと言って、妻に算数や漢字のドリルをがんがんやらせる。そうして少しでも問題を解けると、ほら、僕のお陰でこんなにできるようになったと胸を張るのです。でもそれは相手のためというより、自己満足のために強制していることでしょう。夫をエリート息子や几帳面な娘に、妻を老いた親に置き換えると、実はこうしたケースは少なくない。介護によって親を支配する、介護が子どものアイデンティティーになってしまうと、結局は『ほかの人には任せられない』と自分だけで抱え込みます。一生懸命尽くされているのですが、介護をしている方の本音はつらい場合もあります」
一見献身的な介護にも、思わぬ落とし穴が潜んでいる。捨てるのか、それとも関わるのか、迷いながらもさまざまな角度から考え、必要に応じて周囲の助けを求めることが大切だろう。