文春オンライン

「“消えるボールペン”で書いちゃった」「長女と揉めて、保険を解約し2000万渡すことに」…本当にあった“ヤバい遺言状トラブル”

2023/05/03
note

 長女の剣幕に母親はとうとう精神を病んでしまったが、長女は構わずに裁判に訴えた。その結果、長女が家を出ることを条件に、母親が長女に2000万円渡すことで決着した。母親が相続した大半は自宅であり、貯金だけでは足りず、生命保険を解約したという。

 近年は、遺言者と認知症の関係も深刻だ。

子供の家をたらい回しにされ、そのたびに遺言状を書かされる

 遺言者が認知症を発症していて法律上の意思能力がなければ、遺言書は無効になる。しかし何年か後に来る相続の時点で、さかのぼって意思能力の有無を確認することは難しい。

ADVERTISEMENT

 中には、高齢の父親が長男、長女、次女……と子供たちの家をたらい回しにされ、そのたびに、同居していた子供に有利な遺言書を書かされていたケースもある。法律上は最新版が有効だが、その間に認知症を発症していれば、どの段階で書いた遺言書が有効か争われることになる。

 公証人に作成してもらう公正証書遺言は、遺言者の意思能力をきちんと確認してくれた上で作成されると思われがちだが、実はそうでもない。

 公正証書遺言の有効性を巡る裁判で、2016年1月に東京地裁が出した判決は、次男が意思能力のない親を公証人役場へ連れて行って「次男の意図通りに遺言書が作成された」と判断し、公正証書遺言を無効とした(事例は『国税OBだけが知っている 失敗しない相続』(文春新書)より)。

「デジタル遺言状」も登場したものの…

 改めて確認すると、自筆証書遺言は、民法968条で「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と定められている。書き間違えた時は、訂正する際にその旨を書いていちいち署名、押印しなければならず、訂正するより書き直したほうが早くなる。

 しかも遺言書を書いた後に財産の内容が変わったり、遺言内容を変えたりする時は、その都度、書き直すほかない。

 国はデジタル化の推進を掲げてマイナンバーカードの普及も進めているが、遺言書のデジタル化(電子遺言書)が認められれば、少なくとも単純な記述ミスはなくなり、作成の利便性は大きく向上する。

 また、遺言書の作成率は3%程度と言われるが、デジタル化すれば作成率が上がる可能性もあるだろう。

 実際、政府の規制改革推進会議の「デジタル基盤ワーキング・グループ」の第2回会議(22年3月1日)で、電子遺言書の導入が検討された。

 有識者として、この会議に出席したサムライセキュリティの濱川智社長が話す。

「民法が遺言書に求めているのは本人確認と真意性ですが、生体認証と本人確認書類、パスワードを組み合わせるなど複合認証を採用すれば、かなり厳格に本人確認と真意性が担保できます。またブロックチェーン(分散型台帳)を利用すれば、内容の改ざんリスクはかなり排除できます。技術的には、遺言書のデジタル化は可能です」