よくある「内容の不備」

「遺言書を書いたから大丈夫や」――。

 こう豪語していた会社経営者が70代後半で亡くなった後、妻、長男、長女の3人は裁判所で遺言書を検認してもらって、初めて中身を見て拍子抜けした。

 縦書きの便せん2枚に書かれた文字は、確かに父親の達筆なくずし字。しかし内容は、「会社の株は長男に」「現金は妻と長女が半分に分け、長男が金に困っていれば、妻の判断で分けてあげること」としか書いていなかった。父親名義の自宅など他の財産については書かれていなかったため、遺産分割を決めることができなかったのだ。

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 相続は、相続人全員が合意すれば遺言書の内容を無視できる。3人は仕方なく遺産分割協議に入って事なきを得たが、3人が合意できなければ相続争いが起きていた可能性もあっただろう。

 遺言書の内容は自由に決められるため、父親が、可愛がっていた長男に遺産のすべてを渡し、次男には何も遺さないということもできる。

 しかし法定相続人のうち、配偶者・子供・親の3者には、遺言書で分配対象から外されたとしても、一定の財産分与を請求できる「遺留分」という権利がある。

 この例では次男は遺産を請求できる権利がある。こういったケースでは、話し合い、そして訴訟に至ることも多いため、遺言書を書く際にあらかじめ遺留分に留意して書いたほうが、遺族の負担が軽くなることが多い。

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「無効でしょ!」長女に訴えられた母親

 遺言書を遺したことで、逆に相続争いが起きることもある。

 70代後半の両親が住む都内の持ち家に、離婚した40代後半の長女が子供1人を連れて帰り、一緒に暮らしていたケース。

 父親が亡くなった時、遺言書を遺していたことを母親と長女は初めて知った。そこには「財産は妻に渡す」と書かれ、長女に向けて「母さんの面倒を頼む」と添えられていた。

 この遺言書を見た長女が激怒。財産をもらえるものと思って計画を立てていたらしい。そして遺言書に押印がないことに気づいて「無効でしょ!」と騒ぎ出した。

 長女の怒りはすさまじく、離婚して両親のもとへ帰る時に父親は多額の援助を行ったが、「援助してもらったことはない!」と記憶を改ざんする始末だった。