へその消毒(へその緒がついたままで運ばれてくるような赤ちゃんも少なからずいた)や、予防接種、哺乳瓶の消毒など、当たり前のことが確実に行われるように努めた。
大人用の点滴は500ミリリットルや1リットルが一般的だが、生まれて間もない2キログラムの赤ちゃんが必要とする一日の水分量は150ミリリットル程度である。しかしマイゴマに用意されていた点滴は全て成人用で、過剰な点滴で命を奪ってしまうような事故が起こっていた。点滴液を捨てるのはもったいない気もしたが、赤ちゃんの命を守り、安全な点滴を行うために、市場で料理用の計量カップを買ってきて、点滴を始める前に不必要な分を測って捨ててから点滴をするようにした。
ささやかな努力の成果は、アプローチを変えて一カ月もすると現れ始めた。赤ちゃんを名前で呼ぶスタッフが増え、時間があれば赤ちゃんを膝の上に抱っこしているスタッフの姿が見られるようになっていった。
さらには、赤ちゃんの様子がおかしいと言って、僕のところに連れてくる現地スタッフまで現れ始めた。その様子は、まるで我が子を心配して病院に来る母親のようでもあり、僕は胸が熱くなった。助かる赤ちゃんが徐々に増えてくると、マイゴマには赤ちゃんの泣き声とスタッフの笑い声が広がり始めた。
スーダンでは舌打ちが「了解」を意味すると知らされたのも、この頃だったように思う。
「胸を張って帰れ」
僕が赴任した当初には100人ほどだったマイゴマの赤ちゃんの数は、帰国前には250人を超えた。
半年の任期を全うし、100人以上の赤ちゃんを看取り、疲れ果てて帰国する僕に、「お前がいなかったら、何倍もの赤ちゃんが命を落としていたはずだ」「胸を張って帰れ」と言ってくれたのは、僕に帰国を促したチームリーダーのドミニクだった。
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