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先輩から「カタギがこれで捕まることはない」と…野球賭博で捕まったダルビッシュ翔が明かす、賭博事件の真相と逮捕の理由

『悪名』より #3

genre : ニュース, 社会

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 はじめは、仲間内での小さな遊びだった。

 1週間プロ野球の試合結果を予想して賭け続け、毎週月曜日に精算というのが基本的な流れだ。主にLINEなどの無料通話アプリを使って、仲間たちとは連絡を取り合っていた。

 野球賭博には、ハンデ制度がある。たとえばそのシーズン中にかなり調子がいいチームや優勝に大手がかかっているチームは「ハンデ2」となり、2点以上差をつけて勝たなければいけない……といった具合だ。

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 だから、単純に強いチームに賭けていればいいというわけでもなかった。ここに、人がのめり込んでしまう要因があったのだと思う。

 胴元がうまいハンデをつければ、そのぶん賭けも盛り上がる。

 僕は「上」から降りてくるハンデ表を自分なりに触り、よりみんなが楽しめるように工夫をしていた。

 仲間内でやっていた遊びも、盛り上がるにつれて人が集まるようになってくる。僕が把握しているだけでも規模はどんどん膨らみ、最終的には億単位の金が動くようなこともあった。

「カタギがこれで捕まることはないから、大丈夫や」

 そんなある日、僕は自分に内偵が入っていることに気付いた。内偵とは要するに、何らかの事件の容疑者を尾行するなどして身辺を調べることを言う。内偵は今までも散々経験していたこともあって、僕はなんとなく雰囲気だけで察することができた。見知らぬ車が明らかに自分を尾けてきていることもあった。

「最近知らん車が自分の周りをうろうろしてるんですけど、大丈夫ですかね? 多分府警本部の方の車やと思うんですけど」

 僕はある日上の先輩に聞いてみた。すると、

「カタギがこれで捕まることはないから、大丈夫や」

 との返事があった。

 僕は一抹の不安を抱えながらも、とりあえずは大丈夫なのだろうと思い、そのまま賭博を続けていた。

 逮捕の瞬間は突然だった。夜に出かけようと思い、ツレと4人ほどで車に乗り込もうとしたところ、前方から黒い服を着た男3人組がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

「おいコラァ!」

 彼らは駆け寄ってくるなり、大声で怒鳴りつけてきた。どこかの不良か、その周りの人間だろう。そう思ってこちらが身構えたそのとき、向こうが何か棒状のものを取り出したのが見えた。警棒だった。

「府警本部や! 大人しくせんかい!」

「なんやねん急に! 警察なら手帳見せんかい!」