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 すでに書いた通り、僕は選手に対してコーチの頭を飛び越して直接話をすることはほとんどない。ただし、2022年のシーズンには、わずか数度だったが「これだけはどうしても自分が直接、選手に聞いておいた方がいいな」と思ったことがあった。その相手は若手に限られる。中堅以上の選手たちに、監督があれこれ言う必要もない。

 7月の試合だったと記憶しているが、相手の変化球が決まらずにカウント2ボールナッシングになった場面があった。次の球は、なにが来るか一目瞭然だ。打者はストレートを待っていればいい。そして、ストレートが来た。

 ところが、長岡はバットを少し動かした程度で、見逃してしまった。

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 狙い球が絞れる場面だから、ここは強振してほしいと思っていた。思い切りの良さ――それが長岡がレギュラーを勝ち取った大きな要素でもあったからだ。

 試合後、滅多にないことだが、僕は長岡を監督室に呼んだ。

コーチ時代の高津臣吾氏 ©文藝春秋

「フルスイングすることを忘れないでほしい」

「岡ちゃん(長岡のニックネーム)、あの打席の3球目、絶対にストレートが来ると分かってたでしょ? あそこはどういう考えだったの?」

 彼の真意を訊いてみた。

 僕としては、なにかスイングをしない理由があったのか知りたかった。すると、「合わせにいったというか、タイミングを計りにいってしまいました」という答えが返ってきた。

 その答えには、いろいろ思うところがあった。集中できていなかったのか、迷いがあったのか。本当のところは分からないが、結果として中途半端になったのは否めない。僕は監督として長岡にメッセージを伝えた。

「今日のことは分かったよ。ただ、フルスイングすることを忘れないでほしい。岡ちゃんが何個エラーしようと、打率が1割台になろうと、俺は使うから。岡ちゃんはフルスイングしてボールが当たれば、ライト線にカーンと打てる。だから、あのカウントになって、タイミングを計りにいくとか、いまの段階では求めてない。思い切り振った結果、凡打に終わることを恐れないでほしい」

監督室で初めてLINEのIDを交換

 僕はこうつけ加えた。

「フルスイングできなくなったら、外すからね」

 そこで、長岡に約束した。フルスイングし続ける限り、起用し続けると。