一軍監督に就任して3年の間にセ・リーグ優勝2回、日本一達成1回など、華々しい成果を挙げる高津臣吾監督。その手腕の高さに疑いの余地のない高津氏だが、いったいどのような考えのもとチームづくりを行っているのだろう。

 ここでは同氏の著書『理想の職場マネージメント 一軍監督の仕事』(光文社新書)の一部を抜粋。若手選手との向き合い方について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

高津臣吾監督 ©文藝春秋

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長岡抜擢の裏側

 2022年、野手では長岡秀樹が大ブレイクした。キャンプインの時はまったく無名の若手が、シーズンが終わってみたらゴールデン・グラブ賞を受賞したのだから、監督の僕としてもうれしいし、驚いてもいる。

 振り返ってみると、長岡は「運」にも恵まれていた。キャンプインにあたっては、一軍の浦添組と、二軍の西都組への振り分けがある。当初、長岡は西都に行く予定になっていた。ところが、村上が新型コロナウイルスに感染し、一軍の内野手の枠が一つ空いた。誰を上げようかとなった時に、名前が挙がったのが長岡だった。つまり、1月下旬の段階で、長岡は「ボーダーラインの男」だった。

プロ野球で長く活躍する選手の特徴

 キャンプに入ってから分かったのは、打席での長岡は思い切りがいいということである。とにかく初球からぶんぶん振り回していく。空振りしたとしてもスイングが強く、相手バッテリーが「当たったら嫌だな」と思うタイプだった。

 そのうち、ショートのポジション争いが混沌としてきて、長岡にもオープン戦に出るチャスが増えていった。そこでも打つ。そうやって長岡は開幕戦、6番ショートで先発出場をもぎとったのだ。しかも開幕戦で4安打。ダグアウトでコーチ陣と、「長岡って、こんなに打つの?」というような会話を交わしたほどだ。なにか「持っていた」としか思えない。プロ野球で長く活躍する選手というのは、こうした「ワンチャンス」をモノにできる選手なのだろう。

 もちろん、長岡にはミスもあった。開幕戦では、強い打球をうまく処理していれば……というゴロもあり、記録には表れないミスが失点につながってしまった。ただ、僕は「高卒3年目のショートだから、できないこともたくさんある」と考えていた。その後も、春の間は強い打球に対する処理に甘さが見られたのも事実だ。