田中 うーん。親だけど育ててもらっていないので、不思議な距離感ではありましたね。ただ、私が高校3年生の最終日、施設を出て行く日に「旅立ちを祝う会」というのを施設側が主催してくれたんですが、その日にお父さんが菓子折りを持って「今までありがとうございました」とお礼をしに来たんです。
それから小さな手帳を取り出して、そこには私の通う短大の学費とか、奨学金の総額の計算などがすごく細かく書いてありました。
それを施設長や副施設長に見せながら、「れいかはこれで本当に大丈夫なんですか」と心配そうに聞いているのも見て「あ、お父さんは実はすごく私のことを考えてくれてたんだ」と思って。
――印象が少し変わったんですね。
田中 はい、そうですね。「やっぱりお父さんは不器用な人なんだな、でもちゃんと私のことを考えようとしてくれてたんだな」と。だんだんと「お父さんもあのときは仕方なかったのかも」という気持ちに変化していきました。
世間一般のイメージと児童養護施設での暮らしのギャップ
――ちなみに世間では「児童養護施設育ち」と聞くと「かわいそう」など同情的な反応をされることが多いと聞いたことがありますが……。
田中 あくまで私の場合なのですが、児童養護施設を卒業した18歳のときまでの11年間で、あまり辛いことってなくて。
いろんな行事があって、例えば誕生日会やキャンプ、スキー旅行など、逆に、楽しい思い出やいい思い出しかないかもしれません。もちろん、育つホームや環境、特性などによって個人差が大きくあると思いますが……。一緒に育った子どもたちや施設の職員は、家族とは違うんですが、友達以上家族未満のような感覚でした。
――世間一般のイメージと、もちろん個人差はあるものの児童養護施設での暮らしにはギャップが大きくあるのではないか、と思う具体的な例を教えていただきたいです。
田中 よく言われるのは「習い事ができるなんて知らなかった」ということですね。「親に習い事をさせてもらえない」とか「食べるものに困っている」という話を聞いたりなんかすると、社会的養護に繋がったほうが恵まれている部分もあるのかも、と思うこともあります。
あと衣服費が年間4万円まで出るので、着るものに困るようなこともないんです。
――私は貧困家庭出身ですけど、著書でそのお話を拝見したときは「私より全然、衣服にお金をかけられている」と思いました。子供の頃、私はほとんどお下がりだったんです。施設ではお下がりを着ることなどはありますか?