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田中 ほとんどないかなぁ。自分は自分のものを着る、というような。好みに合うような服が回ってくればもちろん着ますけど、私の場合はほぼありませんでしたね。

――「あの先輩が着ているパーカー、可愛いからほしい」みたいなの、ありませんでしたか。私なら先輩が成長して着られなくなる頃にお下がりを狙っちゃいそうですけど。

田中 いや、なかったです(笑)。自分で選ぶものか、職員さんが選んでくれるのを着たい、というのがあったので。施設としても、ひとりひとりを尊重する雰囲気が以前よりも高まっていると感じます。

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なかには、施設で暮らしていることを隠している子も

――少しずつ変化している部分でもあるんですね。田中さんが学校や社会で生活する中で、世間からの偏見などをぶつけられてしまったご経験はありますか。

田中 私は直接的にそういったことはありませんでしたが、他の子はいじめに遭ったりすることがあったようです。私自身は当時、なんの抵抗もなく学校から施設にまっすぐ帰っていたのですが、なかには「施設に帰っているのがバレたくない」と言って、わざわざ遠回りしてそうっと施設に入ったりしている子もいて。

 実際に聞いたことがあるのは、同級生から「お前、親がいないんだってな」といったところからいじめに発展したという話です。それを見た子たちが「自分もオープンにしたら標的にされる」と考えて言えなくなったとも。

 あとは、他の施設では、先輩から後輩にいじめが受け継がれることがあるというのも、初めて聞いた時は「えーっ」と驚いてしまいました。

メディアは社会構造の問題点などにもっと触れるべき

――やはり人が集まると、どうしてもそういうことが起こってしまうケースはありますよね。「児童養護施設」と一言で言っても、どのホームに住むかで全く変わってきそうですね。

田中 そうなんですよ。施設を卒業したあと、ニュースなどで児童養護施設の特集を見ることがあったのですが、そのときに初めて、自分たちのような存在が「弱者」と言われている現状や「支援されるべき存在」と見られているのだと知って。

 

――田中さんとしては、番組の報道に違和感がありましたか?

田中 はい。「虐待した親は悪者だ」という扱いばかりで、その人たちの背景や、虐待を生む社会構造の問題点などに触れないのは、違和感があります。施設出身の友人たちと「あの報じられ方は嫌だね」という話をすることもありますね。

――田中さんご自身もお父様やお母様にどういった背景があったのかを見てきた故に、疑問を抱かれているのですね。

田中 メディアによって消費だけされているような感覚ですね。どうしてそういう風になってしまったのかという部分もちゃんと報じて、社会構造だったり子育て世代への支援の薄さなどの問題点にも触れてほしいと思っています。

撮影=末永裕樹/文藝春秋

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