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三手先まで準備する

 また手術には手先の器用さも必要ですが、それ以上に大事なのが一手先、二手先を読むことです。たとえば若いドクターに執刀してもらうと、難しいシーンで手が止まることがあります。そんな時には、どんな手順で進めばいいかを教えてあげます。「ここを切ったら血が出るから、こっちから切らなあかん」といった感じです。すると簡単に難局を突破できるようになる。それがわかるのは、やはり知識と経験の積み重ねです。

 私が手術するときは、手術器具を手渡してくれる「器械出し」の看護師さんに、三手先の器具まで準備するよう伝えています。それによって、どの順番で何をすべきか、私自身の頭の整理ができるんです。そのイメージを明らかにしておくことで、手術がハーモニーになって、うまく進むのです。

 下手な手術はそれが読めてないし、読んだ方向が違ってしまっている。私は、どの方向に進むのが正しかったのかを録画したビデオを見ながら反省する、それを20年繰り返してきたわけです。

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――とはいえ、どんな外科医も最初から手術が上手なわけではありません。腹腔鏡で重大な事故も起きました。

 私も若い頃は下手でした。その頃の患者さんには、今から振り返ると申し訳ないと思っています。しかし、それがなかったら、今のレベルの手術ができるようにはならなかったでしょう。だからこそ、手術をさせてくださった患者さんのためにも、自分がした手術を反省することが大切なのです。

 腹腔鏡の事故に関する報道で、よく執刀医の技術が未熟だったと指摘されますが、本質はそうではないと思います。高度な技術を持っていなくても、自分のレベルがどれくらいなのかを客観的に判断して、それに応じた戦略や戦術を立てることができれば、安全に手術を遂行できるはずなんです。

 しかし、その判断を誤り、自分の技量以上の手術に手を出したことが事故の大きな要因となりました。医療事故をゼロにするのは残念ながら難しい。しかし、重大な合併症や死亡事例が起こったら、一定の期間手術をやめて、なぜ起こったのか解決しない限り、先に進んではいけないはずです。

――質の高い安全な手術を受けるために、患者側には何が求められるでしょうか?

 やはり医師とよく話をすることです。とはいえ医師も忙しいので、医学的に必要なポイントに絞って質問してください。たとえば今受けている治療は適切か、どういう根拠でそれを勧めているのか、執刀医の手術経験数や合併症率、死亡率などの成績はどうか。

 実は食道がんは胃がんのように症例が豊富でないので、診療ガイドラインには曖昧な部分がたくさんあります。つまり、絶対的に正しい治療がないぶん、セカンドオピニオンを聞く余地があるのです。それに、食道がん患者は高齢の方が多く、60%に持病があります。だからこそ、積極的に複数の医師の意見を聞いてほしい。

 それらの情報をもとに納得して執刀医を選ぶことが、質の高い安全な手術を受けるために必要不可欠です。そうすることが、患者さん側の義務だとすら思いますよ。