不安を煽るものや「べき」「ねばならぬ」論が目立つ多くの「定年準備」アドバイス。しかし、実際に定年後の生活を経験してみると、それほど心配する必要はない。そう主張するのが、経済コラムニストの大江英樹氏だ。しかし、老後2000万円問題をはじめ、定年後の金銭的な不安を感じる人は多いだろう。はたして私たちはどのように老後の生活に向き合っていけばよいのか。
ここでは、大江氏による『定年前、しなくていい5つのこと 「定年の常識」にダマされるな!』(光文社新書)の一部を抜粋。現実的な投資の方法、老後の不安解消のための考え方について紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
◆◆◆
不安に煽られて投資を始めてしまう人々
年金不安を煽る報道に惑わされてはいけないというお話をしましたが、年金不安を煽るのはマスコミだけではありません。金融機関の営業マンも同様に「年金は破綻する」と訴えかけてきます。でもそれは彼らの商売を考えたら当然です。彼らにとって、年金は破綻してくれないと困るのです。なぜなら老後の年金をあまり心配しなくてもよいというのであれば、彼らが販売する金融商品はあまり売れなくなってしまうからです。
私自身、証券会社で長年仕事をしていましたが、正直に言うと、今から30年ぐらい前に現場の第一線で営業をやっていた時には、「年金なんて当てになりませんよ。いずれ破綻するかもしれない。だからそれに備えて投資信託を買いましょう」と言ってお客さんに勧めていました。でも破綻するどころか、当時から年金の積立金は倍以上に増えています。
とはいえ、マスコミが不安を煽る上に、金融機関のセールスから言われると、誰でも不安を覚えるのは当然でしょう。特に定年が近づいている人にとっては、リタイアした後の生活というのは未知の世界ですから、余計に不安が昂じてくるのは致し方ありません。特に前述した年金2000万円問題によって、焦って「何とかしなきゃ」と考える人はさらに増えたと思います。事実、知り合いの証券会社の人たちに聞くと、年金2000万円問題が報じられた後は、新規に口座を開設して取引を始めた人は非常に増えたと言います。
もちろん、将来に備えて自助努力の必要性を感じ、自分自身の判断で投資を始めるということは決して悪いことではありません。しかしながら、若い人であればともかく、それまで投資の経験の無かった人が定年を迎えて、「年金が不安だから」という理由だけで深く考えずに投資を始めるのはあまり感心しません。
特に、もらった退職金を投資につぎ込む、いわゆる「退職金投資デビュー」だけは、絶対にやってはいけません。なぜならあまりにもリスクが大きいからです。