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ChatGPTでは政策が前に進まない

 鳥取県では知事や幹部職員が住民との対話集会を開いたり、施策の出前講座を行ったりしてきた。

「そうした場でお母さん達から『高校の通学費が高い。助成制度を作ってほしい』という声が出ました。田舎にはそもそも高校が少ないのに、統廃合が進んでいます。遠方までバスや鉄道を乗り継いで通わなければならず、通学定期代が月に6万円にも7万円にもなるのです」

 知られざる田舎の常識だろう。通学定期だけでなく、遠方の「最寄り駅」まで送り迎えをしている保護者も少なくない。買い物一つ取っても自動車が要る。ガソリン代も含めて、田舎暮らしにはかなりの費用が必要なのである。

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列車やバスを乗り継いで遠方に通う高校生もいる(JR米子駅)

「こうした問題をChatGPTに投げ掛けたところで、一般的な中山間地の問題点や、交通が不便だという現状について答えるだけでしょう。市長会や町村会と協議し、何とか話をまとめて、定期代の助成をやってみたらどうですかなどというような回答は、間違っても出てきません。ChatGPTでは政策が前に進まないのです」と平井知事は指摘する。

 対話集会での問題提起を受け、鳥取県では2020年4月から、県と市町村が財源を半分ずつ出し合って、高校や高専、特別支援学校の高等部、専門学校に通う生徒に通学費の助成を始めた。全国で初めての事業となった。

ネット上にはない「アウトリーチ」で得られる情報

 他にもChatGPTには根源的な問題がある。

 学習するデータがネット上の情報に限られているという点だ。ネット上にはありとあらゆる情報があるような気がする。だが、年齢層や職種、置かれた状況によって、発信される情報量は大きく異なる。ネット上にあまり存在していない情報もまた膨大なのである。

高齢化の進む集落。こうした地区の課題は足で拾って歩くしかない(鳥取県内)

 しかし、政治や行政には声の出せない人々に光を当てる役割がある。声を出せないからこそ深刻な問題を抱えている場合もあるからだ。

「鳥取県は2022年の年末に、孤独孤立防止条例(鳥取県孤独・孤立を防ぐ温もりのある支え愛社会づくり推進条例)を都道府県として初めて制定しました。県はこれに基づき、ひとり親や障害者、老老介護、ヤングケアラーなどの家庭に、市町村やNPOと一緒にアプローチしていきます。流行りの言葉で言えば、アウトリーチ(『外に手を伸ばす』という意味の英語から派生した言葉。支援が必要なのに届いていない人への訪問活動など)が大事なのです。手間と時間はかかりますが、鳥取県の人口規模ならギリギリできる。ここにこそ地方自治の存在意義があるのだと思います」と平井知事は語る。

「人の声を聞いて回ったからこそ、実現できた施策がある」と話す平井伸治知事

 アウトリーチで得られるのは、ChatGPTでは絶対に得られない情報に違いない。