ChatGPTがあまり得意ではない「変化への対応」
政策は変化にも対応しなければならない。これもChatGPTがあまり得意ではない分野だと平井知事は見ている。
「今の物価高騰もそうですが、どんどんフェーズ(局面)が変わっていきます。こうしたことは業界団体や現場の声をうかがって歩いた方がよっぽど早くつかむことができます」
例えば酪農家の苦境。国は過去のバター不足などから牛乳の生産量を増やす政策を取ってきたが、増産が始まったところで、新型コロナウイルス感染症が広まった。消費が低迷しただけでなく、国際情勢の煽りで飼料代が上がり、全国の酪農家は極限まで追い詰められた。
「悲痛な声を聞いて回りました。これを受けて、県は独自に国を上回るエサ代の助成を始めました。このため県内で倒産した酪農家はいません」
声を適切に反映した結果だろう。
「ちゃんとジーミーチーに地べたを泥臭く歩いて…」
「ChatGPTよりも、ちゃんとジーミーチー(地道)に、地べたを泥臭く歩き、人の声を聞いてまとめていくことが大切です」。平井知事は得意のダジャレを交えて力説する。だからこそ意思決定に関わるような使い方はしないと明言したのだ。
平井知事は常々、「県庁という城にこもるな」と職員に説いてきた。
「えてしてこもりがちになるんです。霞が関でもそうなりがちです。なのに、ChatGPTのような技術が加わったら、『苦労しなくても、ちゃんと答えが出てくるじゃないか』という思い込みにつながりかねません。ますます『お城の中』と『外の世界』が別になっていきます。過度にテクノロジーに頼らないよう、自戒すべきです」
ただ、「一切使わない」と言ったわけではなかった。
「検索エンジンと同じように、参考にするためにChatGPTを使うかもしれません。資料や照会物の回答の作成をある程度オートメーション化していくことは可能だと思います。しかし、検証が必要だし、現状説明や分析以上の利用はできず、目の前で困っている人の問題解決にはなりません。
だから間違ってもChatGPTのような手段に頼って仕事をするなと言いたかったのです。言葉はネット上のものより、実社会のそれの方がよっぽど重い。我々が見なければならない対象は、むしろリアルな世界にあります。それを忘れてしまわないかと危惧しているのです」(#2に続く)
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