神奈川県横須賀市は4月18日、ChatGPTを導入すると発表した。
話題の新技術だけに大きく報じられたが、「そこまでの騒ぎになるとは思っていなかった」という。
「テレビには1日に12局から取材を受けました。アメリカのCNNや、中国・台湾のメディアからも問い合わせがありました。『横須賀市はGoogleを使いました』という程度の発表だと考えていたので、驚きました」。経営企画部次長の寒川孝之・デジタル・ガバメント推進室長が話す。
しかも、横須賀市はデジタル政策に関して、長らく「先進」とは言えない状態だった。それがなぜ、ChatGPTに関しては他に先んじて導入することになったのか――。(全3回の3回目/#1、#2を読む)
行政課題はどんどん増えていくのに、いずれは職員も減っていく
市がDXを施策にいかそうと本腰を入れたのは2020年4月だ。「20年ぐらい前には先進自治体と騒がれた時代もありましたが、上地克明市長の指示でデジタル・ガバメント推進室を設け、再び力を入れることになったのです。背景には全国で進む人口減少がありました。横須賀市も例外ではありません。いずれは職員も減っていくでしょう。なのに行政課題はどんどん増えていく。既存の職員数ではサービスを賄いきれなくなります。その時に向けて、DXで徹底的な行政効率の向上を図るしかありません。これで浮いた人的リソース(資源)を他の業務に充てようという発想でした」と、寒川室長が説明する。
だが、推進室は開設当初から混乱に直面した。新型コロナウイルス感染症の流行開始と重なったのだ。
「まず保健所の危機を救わなければ」と推進室開設の翌日、寒川室長らは保健所を訪れた。「マズイなと思いました。紙で連絡を取り合っていたので、パンクするに決まっていました。『あの書類はどこにいった』などとならないよう、とりあえずPDFにしてファイル化しました。さらに問題だったのは本庁舎との間のリアルタイムの通信でした」
市の保健所は私鉄の京浜急行だと2駅先にあり、2kmほど離れている。
「重要な意思決定をしなければならないのに、電話ではらちがあきません。民間のチャットツール(パソコンなどを介して双方向でコミュニケーションできるツール)を市役所の業務で使うには抵抗がありました。万一、事故があったら大変なことになります。そこで民間会社が提供している自治体向けのチャットツールを導入しました」
これが後にChatGPTを導入する際に効果を発揮することになる。
その後はデジタル施策の遅れを取り戻すかのように、「やらないといけないと思ったことをゲリラ的にバンバン行っていきました。このため、年度途中で補正予算も組みました」と寒川室長は話す。