現場での最先端の変化や、人々のリアルな暮らしを反映した施策。
これを実現するには、ChatGPTに質問するよりも、「ちゃんとジーミーチー(地道)」に歩いて、泥臭く声を聞いて回るべきだと主張する鳥取県の平井伸治知事。
社会に一石を投じるような発言をしたのは、地方自治の在り方もさることながら、社会そのものの行く末に不安感を抱いたからだ。
それは民主主義の危機だった。#1に続き、知事の考え方を聞く。(全3回の2回目/#1、#3を読む)
意思決定を委ねてしまったら、機械が作る未来がやってくる
「スタンリー・キューブリックが製作・監督し、1968年に公開されたアメリカ映画『2001年宇宙の旅』をご存じですか」。平井知事が切り出す。
「HALというコンピュータが宇宙船を支配しようとした物語です。主人公達はHALをだまし、コンピュータが描いたストーリーとは別の展開になっていきます。映画が公開された当時は荒唐無稽なSFでしたが、今はどうでしょう。あえてHALに従おうとする風潮があるのではないでしょうか。意思決定をChatGPTに委ねてしまったら、我々が作る未来じゃなく、機械が作る未来になってしまいます」
疑問が膨らみ始めたのは、「議会答弁など様々な用途に使えるということが、社会でワーっと流れ始めた」からだった。
議会は地方でも国でも人々の代表が物事を決める場だ。だからこそ「ちゃんとジーミーチー」に声を拾ったうえで施策を形成し、首長と議員が真剣勝負で議論しなければならない。
機械の言葉による現状説明では何の解決策にもならない
「私は鳥取県議会で全て原稿なしで答弁しています。デモクラシーとは、その時々の課題を皆で話し合い、よりよい解決策に変えていく道筋だからです。そうした場でChatGPTをそのまま使うような質疑応答が行われたら、民主主義とはかけ離れてしまいます。ただ、もしかするとChatGPTを使った方が演劇のようにカッコよく、暖かみのあるやりとりになるかもしれません。でも、機械の言葉による現状説明では何の解決策にもならないし、有権者に対しても失礼です。こうした議論がでてくる背景には、議会が形骸化している実態もあるのかなとは思いますが」
平井知事の考える議会答弁は「住民の皆さんや現場の方々の声をまとめた表現」だ。「機械ではなく、我々の主導権で構成しないといけない」と言い切る。
さらに、「ChatGPTは予算や重要な政策文書も作れるかもしれません。それでは我々の判断権、主権在民を放棄することになります」と語調を強める。
では、新しい技術にどう向き合っていけばいいのか。
平井知事はその前提として次のように語る。