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「機械が未来を作っていいのか」“答えが出たような気がするChatGPT”を見て平井鳥取県知事が予感した“危機”

ChatGPT、公共機関でどうする#2

2023/05/11
note

民主主義は簡単に乗っ取られてしまう

「ウクライナ情勢などを見ていても、『ペンは剣より強し』という格言が当てはまらなくなりつつあります。ペンを握るのがコンピュータになり、そのコンピュータを特定勢力が操作するとしたら、民主主義は簡単に乗っ取られて、形骸化してしまうでしょう。SFが現実化するのです。新しいテクノロジーに乗り遅れないことも重要でしょうが、無条件に乗ってしまいかねない空気もあり、危険なのではないかと感じています。

 ネットの中では何でも許され、完全な自由だという価値観を持つ人もいます。ただ、岸田文雄首相が遊説中に襲われた鉄パイプ爆弾の製法を、犯人はどこから拾ってきたのでしょうか。そういうことも考えていかなければなりません」

 こうしたことから、鳥取県では県庁でChatGPTを使っていくためのガイドラインを定める。

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「鳥取県は小さな県庁なので、新しいテクノロジーはどんどん使ってきました。県のCIO補佐官(柴崎亮介・東京大学空間情報科学研究センター教授、米澤政洋・一般社団法人Society5.0振興協会特定プロジェクト推進委員長)を始めとした専門家の意見を聞きながら、これからも使っていきます。たぶんChatGPTもある意味活用していくでしょう。しかし、民主主義や地方自治を放棄するような使い方はしてはなりません。ガイドラインはそのための基本的な項目になると思います」

鳥取県庁

一人一人の声を聞いて集約していくことの大切さ

 平井知事はそうした説明を行う中で、第16代アメリカ大統領のエブラハム・リンカーンが行ったゲティスバーグ演説(1863年)に言及した。

「『government of the people, by the people,for the people』(人民の、人民による、人民のための政治)という一節が有名です。しかし、この後にさらに重要な言葉が続きます。『shall not perish from the earth』。この地球上からなくしてはならないと述べたのです。

 ゲティスバーグには国立戦没者墓地があります。リンカーンは南北戦争の北軍総司令官で、デモクラシーを守るために南軍と正面から戦いました。そのリンカーンが墓地で、今で言えばウクライナのゼレンスキー大統領のように、命がけで民主主義を守らないといけないと訴えた。流血の事態すらいとわずに民主主義を守ってきたのが世界の歴史なのです。私には今、あの時代が再現されようとしているのではないかという不安があります。

 民主主義はもろいものです。地面から生えた草のような世界です。非常に原始的な手法かもしれませんが、今のような時代だからこそ、インターネットに頼り切るのではなく、一人一人の声を聞いて集約していくことが大切なのではないかと強く感じています」(#3に続く

「鳥取県には美味しいものも、美しい場所もいっぱいあります」とPRする平井伸治知事 

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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