女性たちが進んだあとには、赤いしみが…
敵だけでなく、女性たちは自軍の男たちの無理解とも闘わなくてはなりませんでした。軍服は男用しかなく手が袖から出ない、軍靴もぶかぶか。下着も初めは男物のみ。射撃手だったある女の子は、戦争で一番恐ろしいことは死ではなく、男物のパンツを穿いていることと語っています。
困ったのは生理。長い行軍の間、彼女たちは柔らかい草を探して、その跡を拭いました。女性たちが進んだあとには、赤いしみが残りましたが、男たちは気づかぬふりをしました。
それでも、女の子たちは、男どもの無理解、無神経さも乗り越えて軍のありとあらゆる分野でその才能を発揮しました。狙撃兵のニーナ・ロブコヴスカヤは300人以上のドイツ兵を射殺し、また、リディア・リトヴァクは12機ものドイツ機を打ち落とし、世界初の女性エースパイロットとなりました。
パルチザンとなったゾーヤという女性はドイツ軍に捕らえられ、凄絶な拷問のあと、街の広場で縛り首にされます。しかし、最後の瞬間、こう叫びました。
「わたし達は2億人いる。決して、決して、全員を縛り首にするなんて出来ない!!」
奮戦する彼女たちの姿に、最初は反発していた男たちも次第に受け入れはじめます。戦闘に参加した女性たちは口をそろえて、男たちは立派で、敬意をもって接してくれたと語っています。男たちは砲弾が降ってくると、必ず女性をかばい、食料はまず女性に分け与えました。
女性の存在は戦場にいる全ての男たちにとって救いだったようです。ある瀕死の将校は、看護師の女の子に乳房を見せてくれるよう頼んでいます。恥ずかしくて、何か言った後テントを出た少女がしばらくして戻ってきたら、将校は微笑みを浮かべたまま死んでいました。
女性として根絶できない部分
男にとって女が希望だったように、女性にとっても女であることは大事なことでした。時にそれは自分自身が戦争そのものにならないための最後の砦だったのです。
小鳥、馬、朝焼けの美しさ、スミレの花、黄色いドレス、空色の待雪草、小枝で作ったピン、ウールのワンピース、音楽、歌、ゲットーのユダヤ人の少年と少女のキス、そして涙。
彼女たちの目は、それら奇跡のように焼け残った小さく優しく美しいものたちを、驚くべき解像度でとらえています。「美しさ」それはスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチが述べたように、「女性としての存在の根絶できない部分」、女の前の女、女性の本性なのでしょうか。