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頻繁に聞かれる「なぜ離婚しなかったのか」

――「食べ吐き時間」を組み込むことを念頭に動かれたんですね。ただ、ご本人と病気について話せないとなると、永田さんはふだん誰に相談を?

永田 緊急入院した先の主治医に「障害のことは絶対に知らせるな」と言ったように、彼女には、食べ吐きというものが絶対に人には知られてはならない恥ずかしい行為であるという意識が強くありました。

 なので、私も誰かに話すといっても絶対に本人にバレないようなかたちで相談するしかなく、本当にこっそりと、ごくごく親しい学生時代の親友に話したり、私一人で定期的に精神科医の先生に相談したり。本人が精神科病院にかかるまではそこも苦しかった点ですね。

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――20年間の闘病中、一度だけ永田さんから離婚を切り出したことがあるそうですね。

永田 過食嘔吐のための食材購入費のために「サラ金」に手を出すかどうかになった時の一回だけですね。

 以前、この本についてインタビューを受けたとき、「とっとと離婚すれば良かったのに。こいつはバカじゃないか」というようなことをネットに書かれました。

 たとえば夫のアルコール依存症に悩んでいる専業主婦の方など、経済的な理由や子どもの問題で別れたくても別れられない方がいる中で、私の場合、子どももいないし、稼ぎ手は私の方なので、容易に別れられるじゃないか、ということなんだろうと思うんですが。

――本を読んだ私も、なぜ大変な状況から逃げ出さなかったのか、不思議に思う部分はありました。

永田 依存症の患者に対しては、家族の援助などをすべて断ち切って「底つき」させることが必要という言説もありますが、それに従って離婚したら、きっと彼女は死んでしまうだろう、という思いがありました。実際、後日精神科医にも聞きましたが、きっぱりと「永田さんがいなかったら死んでたでしょう」と。

――離婚という判断で導かれる結果が「妻の死」であるなら、それは選択肢として選ぶことが難しいと……。

永田 自分が直接手を下して人を殺したわけではないけれども、自分の決断で一人の命が失われるという状況は、相当なプレッシャーです。