左目を“負傷させられた”はずの中谷仁が中込伸に会いに来た
元プロ野球選手は、アマ選手を指導するために「アマ資格回復」の講座を受ける必要があるのだが、中谷はそのために甲子園へやって来た時、中込の店に足を運んだのだという。
「いろいろお騒がせして、すみません、みたいなこと言うから『俺が原因なんだから、別にええんよ。お前は頑張れ』みたいなこと、言ったんだけどね。まあまあ、ホントにしっかりしているよね、そういうところは」
会話の流れが、いきなり勢いづいた感じがした。インタビュー取材は、この熱を帯びた瞬間を逃さないことが鉄則だ。
「山村君にも、甲府で会ってきました」
すると中込は、山村が戦力外通告を受けた当日と、翌朝の出来事を話し始めた。
神戸の繁華街・三宮で、知人と酒席をともにしていた時だったという。
中込の携帯電話が鳴った。
「実は、クビになります」
球団からの正式な通達を前にした山村からの思いもよらぬ報告に「なんでやー」と大声を上げたという。
「まあまあ、別に阪神だけじゃないぞ。野球が終わるわけじゃない。お前くらいの実力があれば、どこか獲ってくれるわ」
そう励ました後、また、いつものペースで飲み続け、気がつけば夜が明けていた。
「べろべろになって、帰ったんだよ。そしたら、一緒に飲んでた人から電話がかかってきて『おい、お前、新聞に載ってるぞ』って」
アルコールがまだ残る、ぼんやりとした中で、スポーツ紙を手に取った。
ダイエーの日本一が大きく報じられている中で、山村の記事が目に飛び込んできた。
「ドラ1クラッシャー」「阪神のジャイアン」「いじめっ子中込」
「そしたら、先輩がイジめた、みたいなことなんよ。うはははははー」
中谷の“携帯電話直撃事件”は、これほどまでに大っぴらにはなっていなかったが、すでに、トラ番記者たちの間では、半ば周知の事実になっていた。
その当時、これを正面切って、中込に聞いたわけではない。それでも、すっかり中込のイメージは「ヒール」、つまり悪役だった。